ロールス・ロイス クレシー

クレシー(Crecy)エンジンの概要

クレシーは、イギリスの名門メーカー・ロールス・ロイスが開発した、航空機用の実験的なエンジンです。このエンジンは約26リットルの排気量を持つ2ストロークの90度V型12気筒設計で、液冷方式を採用しています。また、スリーブバルブと直接燃料噴射装置が特徴的です。1941年から1945年までの期間に開発が行われ、飛行試験の後にはスーパーマリン・スピットファイアへの搭載が検討されましたが、最終的には他の航空機には採用されることなく、ジェットエンジン技術の進展により開発が中止されました。

名前の由来

クレシーの名は、フランスのクレシーの戦いから名付けられています。この名はロールス・ロイスの新しい2ストロークエンジンに与えられました。クレシー後、航空エンジンの名前はジェットエンジンに由来することが増えました。

設計と開発

このエンジンの開発は、英連邦航空研究諮問委員会の委員長、ヘンリー・ティザード卿が1935年にドイツの航空力の脅威を感じ、強力なエンジンが必要だと考えたことに始まります。ティザード卿の提言は、彼の友人であるハリー・リカルドにも影響を与え、クレシーの開発へとつながりました。1935年12月には、このプロジェクトが公式に討議されました。

過去のケストレルエンジンの経験を通じて、空軍省との契約によって2ストロークエンジンとスリーブバルブ設計の研究が進められました。そして、1937年にはハリー・ウッドをプロジェクトエンジニアとして、リカルド設計の試験用ユニットを用い単気型の開発が始まりますが、最初に考えられていた圧縮点火エンジンから、最終的にはより保守的な火花点火方式へと変更されました。

技術的特徴

1941年に完成した最初のフル12気筒型はハリー・ウッドの指導のもと設計されました。このエンジンは内径5.1インチ、行程6.5インチ、圧縮比7:1で、重量は1,900ポンドです。スーパーチャージャーの助けにより、点火時期は30° BTDCに設定され、最大で1,400馬力を発揮することができましたが、冷却や振動に関する問題が生じていました。興味深いのは、2ストロークエンジンが生成する排気推力によって最大出力が増大する部分で、高速・高高度での性能を期待されていました。

開発の中止

しかしながら、ジェットエンジンの技術が進化するにつれて、クレシーエンジンの開発は不要とされました。そして1945年12月、すでに計画があった8機のV型エンジンが生産されることはなく、6機の試験機しか完成しないまま計画は中止されました。最後の試験では、クレシーエンジンは1,798馬力を達成し、その後排気タービンを取り付けた試験では2,500馬力に達しました。

搭載予定機体

クレシーの搭載が想定された機体には、ホーカー ヘンリーやスーパーマリン・スピットファイアがありました。特に1942年には、スピットファイア用に初期生産型が手配されましたが、納入されることはありませんでした。ロイヤル・エアクラフト・エスタブリッシュメントの報告書では、クレシー搭載のスピットファイアは、グリフォンエンジンを搭載した機体を超える性能を発揮する可能性があると評価されました。

仕様概要

• - エンジン形式: 12シリンダー過給液冷2ストロークピストンエンジン
• - 内径: 5.1インチ（129.5 mm）
• - 行程: 6.5インチ（165.1 mm）
• - 排気量: 1,536立方インチ（26リットル）
• - 空虚重量: 1,900ポンド(862 kg)

このように、クレシーは高度な技術を持つエンジンとして設計されましたが、最終的には新たな技術革新により日の目を見ることはありませんでした。

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