ロールス・ロイス・20/25HP

ロールス・ロイス 20/25HP：洗練と耐久性を極めた名車

1929年9月から1936年にかけて、ロールス・ロイス社が製造した20/25HPは、同社の歴史において重要な位置を占める乗用車です。その前身であるトゥウェンティーは、第一次世界大戦後の不況期に発売されました。扱いやすいサイズとバランスの取れた性能で好評を得ましたが、時代とともに顧客の要望は変化し、より重いボディへの対応が求められるようになりました。トゥウェンティーのエンジンは、高回転域でのクランクシャフトの捩れや共振という課題を抱えていました。

そこで、ロールス・ロイス社は、改良されたエンジンを搭載した新型車を開発します。それが20/25HPです。ファントムIIと同時に発表されたこのモデルは、内径を拡大した3669ccのエンジンを搭載。クランクシャフトの設計には38種類もの試作品が作られるなど、徹底的な改良が施されました。バランスウェイトの工夫やフライホイールの軽量化により、トゥウェンティーよりも高い3500rpmを安全に維持できるようになりました。

当時の実験設備の未熟さを補うため、メインベアリングの耐久性試験は、過酷な条件下で行われました。フランスの高速道路をフルスロットルで1万マイル（約16,000km）走行するという、非常に厳しい基準をクリアしなければ合格とはなりませんでした。初期モデルではバビットメタル製のメインベアリングを使用していましたが、1933年にはクランクシャフトの窒化処理技術が導入され、フルスロットルでの走行可能距離は3万マイル（約48,000km）に向上しました。

シャシーは、トゥウェンティーのものを改良し、ファントムIIの小型版と言える設計です。ホイールベースは当初129インチでしたが、1930年には132インチへと延長されました。1932年には『The Motor』誌によるテストで、最高速度74mph（約119km/h）、0-50mph（約80km/h）加速20秒という性能が記録されています。トップギアでもスムーズに走行できる点や、優れた制動性能も評価されました。驚くべきことに、1970年代になっても60mph（約97km/h）での巡航が可能な個体が存在したという報告もあります。

しかし、ギアレバーとブレーキが右側に配置されているため、乗降時に衣服が引っかかりやすく、エレガントな乗降は容易ではありませんでした。1932年からは、シャシーに加えて標準ボディも用意されるようになり、顧客の選択肢が広がりました。そして、20/25HPは、1933年に発売されたベントレー3½リットルのベースモデルとしても重要な役割を果たしました。

1936年、発展型の25/30HPへとバトンタッチし、20/25HPの生産は終了しました。高度な技術と徹底した品質管理、そして過酷なテストをクリアしたその性能は、ロールス・ロイスの伝統と技術力の高さを象徴するモデルとして、今もなお高く評価されています。その洗練されたデザインと、現代でも通用する高い走行性能は、多くの愛好家を魅了し続けています。優れたエンジニアリングと快適な乗り心地を両立させた20/25HPは、まさにロールス・ロイスの技術力の結晶と言えるでしょう。

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