ローレンス・ヴァン・デル・ポスト

ローレンス・ヴァン・デル・ポスト：20世紀を駆け抜けた多才な人生

ローレンス・ヤン・ヴァン・デル・ポスト（1906年-1996年）は、20世紀における稀有な人物でした。作家、農夫、戦争英雄、政治顧問、王室顧問、教育者、ジャーナリスト、人道主義者、哲学者、探検家、自然保護論者と、その肩書きは多岐に渡ります。南アフリカで生まれ育ち、第二次世界大戦では捕虜となり、その後は世界中を旅しながら執筆活動を行い、チャールズ皇太子とも親交を深めました。その波乱に満ちた人生と、多大な影響を与えた作品群について、詳細に見ていきましょう。

オレンジ川植民地から世界へ

ヴァン・デル・ポストは、現在の南アフリカ共和国に位置するオレンジ川植民地で、15人兄弟の五男として誕生しました。法律家にして政治家であった父の影響を受け、幼少期から読書に親しみ、豊富な蔵書を有する書斎で知性と感性を育んでいきました。しかし、父の死を経験し、差別的な教育を受けたことで、自身のアイデンティティや南アフリカにおける人種問題について深く考えるようになります。

若くしてジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、風刺雑誌の編集にも携わりました。過激な内容のため発禁処分を受けるなど、常に自由な表現を追求する姿勢を貫きました。また、日本への航海を経て、作家としての道を歩み始めるきっかけとなりました。

ケープタウンでの生活では、貧困の中で人種問題と向き合い、南アフリカ社会における矛盾を鋭く批判する記事を発表しました。その後、イギリスへ移住し、ブルームズベリー・グループのメンバーらと交流を深め、作家としての地位を確立していきます。

戦争と捕虜収容所

第二次世界大戦勃発後、ヴァン・デル・ポストはイギリス陸軍に志願。東アフリカ、そしてオランダ領東インド（インドネシア）へと赴き、情報部隊の一員として活躍しました。しかし、連合軍の降伏に伴い日本軍の捕虜となり、ジャワの捕虜収容所で過酷な日々を送ることになります。

収容所での体験は、彼の創作活動に大きな影響を与えました。捕虜たちの士気を高め、教育プログラムを組織するなど、リーダーシップを発揮しました。この経験は後に『影さす牢格子』、『種子と蒔く者』、『The Night of the New Moon』といった戦争体験に基づいた作品に反映され、大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』にも影響を与えました。

終戦後、インドネシアの独立運動に関与し、オランダ植民地政府とインドネシアのナショナリスト間の仲介役を務めました。その政治的洞察力は、イギリス政府からも高く評価されました。

カラハリ砂漠とブッシュマン

戦後、ヴァン・デル・ポストはアフリカ大陸の奥地へと探検の旅に出ます。特にカラハリ砂漠での調査は、彼の人生における転換点となりました。そこで彼は、サン人（ブッシュマン）と呼ばれる狩猟採集民と出会い、彼らの文化や信仰体系に深く感銘を受けます。

ブッシュマンの生活と文化を記録した著作は世界的なベストセラーとなり、彼の名声は不動のものとなります。ブッシュマン保護のための活動に尽力し、中央カラハリ動物保護区の設立にも貢献しました。しかし皮肉なことに、この保護区は後にブッシュマンたちの強制移住につながることになります。

晩年と死後の論争

晩年は、執筆活動に加え、チャールズ皇太子との親交を深め、政治顧問として活躍するなど、多方面で影響力を発揮しました。しかし、死後、彼の経歴や著作における事実の不正確さ、あるいは意図的な誇張が指摘され、激しい論争を巻き起こすことになります。

様々な批判がある一方で、戦争体験に基づいた作品や、ブッシュマン保護への貢献は、今もなお高く評価されています。多面的な人物像ゆえに、その功績と批判を冷静に受け止め、歴史における位置付けを再考する必要があるでしょう。

主要作品

ヴァン・デル・ポストは数多くの著作を残しました。旅行記、小説、戦争体験記、心理学に関する著作など、そのテーマは多岐に渡り、それぞれが独自の視点と奥深さを持ち合わせています。日本語訳も多数出版されているため、彼の作品に触れる機会は多くあります。

ヴァン・デル・ポストの生涯は、冒険と探求に満ちた、まさに20世紀を象徴するようなドラマチックなものでした。彼の業績は、私たちに多くの示唆を与え続けています。

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