ワインカラーの少女

ワインカラーの少女 (Letting Go)

ウイングスが1975年に発表した楽曲「ワインカラーの少女」は、彼らの4作目のアルバム『ヴィーナス・アンド・マッース』に収録された重要な一曲であり、後にシングルとしても正式にリリースされました。この楽曲の原題は「Letting Go」です。

この楽曲の制作は、『ヴィーナス・アンド・マッース』アルバムのレコーディングが始まった当初、1974年11月にロンドンのEMIレコーディング・スタジオで行われた最初のセッションで録音されました。歌詞の内容については、作詞・作曲を手掛けたポール・マッカートニーが、当時の妻であるリンダ・マッカートニーへの個人的な感情や深い愛情を表現したものではないかと広く解釈されています。曲全体に流れるソウルフルでパワフルなサウンドは、そうした内面的な思いを音楽として昇華させたものと言えるでしょう。

「ワインカラーの少女」は、アルバム『ヴィーナス・アンド・マッース』のリリースから数ヶ月が経過した1975年10月4日に、アルバムからのセカンド・シングルとしてカットされました。これは、ウイングスのヨーロッパ・ツアーが終了した直後のタイミングでした。通常、シングル・リリースはアルバムの販売促進を目的として行われますが、この曲に関しては商業的な成功は限定的なものに終わりました。全英シングルチャートでは最高位41位に留まり、アメリカでもビルボード誌のチャートでは1975年10月25日付けで最高39位を2週間にわたって記録しましたが、キャッシュボックス誌でも41位に終わるなど、期待されたほどのヒットには繋がりませんでした。アルバムが既に広く普及した後にリリースされたことや、楽曲のスタイルが当時のチャート傾向と少し異なっていたことなどが、その要因として考えられています。

この「ワインカラーの少女」には、いくつかの異なるバージョンが存在します。

アルバム・バージョン: アルバム『ヴィーナス・アンド・マッース』に収録されている、オリジナル・テイクを基にしたバージョンです。
シングル・バージョン: シングル盤のために特別にミキシングされたバージョンです。アルバム・バージョンと比較すると、よりコンパクトな構成になっており、収録時間が約1分短くなっています。このシングル・ミックスは、長らく公式なCD音源としては入手が難しい状態でした。しかし、2014年にリリースされた「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズの一環として発売された『ヴィーナス・アンド・マッース』のデジタルリマスター盤において、ボーナスディスクに初めて公式に収録されました。このアーカイブ・コレクションの発売に合わせて、イギリスではオリジナルのアナログ盤シングルも再リリースされ、話題を呼びました。
* ライブ・バージョン: 1976年に敢行されたウイングスの大規模な北米ツアー「Wings Over America」でのパフォーマンスを収録したライブ・アルバム『ウイングスU.S.A.ライヴ!!』には、ツアーにおける「ワインカラーの少女」のライブ・バージョンが収められています。スタジオ録音とは一味違う、生演奏ならではの熱気と迫力を感じることができます。

日本盤シングルに付けられた「ワインカラーの少女」という邦題は、その抒情的な響きから多くの日本の音楽ファンに記憶されています。この邦題は、楽曲の冒頭部分に登場する特定の歌詞フレーズに由来しているとされています。原題の「Letting Go」が持つ「手放す」「解放する」といった意味合いとは異なり、邦題はより具体的で視覚的なイメージを与えるタイトルとなっています。

シングルのB面には、「やさしいアンサー」という楽曲が収録されました。この曲も『ヴィーナス・アンド・マッース』に収められており、アルバム制作期間中にアメリカのニューオリンズで行われたセッションで録音されたものです。興味深い点として、この「やさしいアンサー」は、日本盤アルバム『ヴィーナス・アンド・マッース』においては「幸せのアンサー」という邦題が付けられていましたが、シングル盤のリリースにあたって「やさしいアンサー」と改題されていることです。なぜタイトルが変更されたのかの公式な説明はありませんが、同じ楽曲が異なる邦題でリリースされた事例として知られています。

「ワインカラーの少女」のレコーディングには、ポール・マッカートニー（ボーカル、ベース、ギター、キーボード等）、リンダ・マッカートニー（バッキング・ボーカル）、デニー・レイン（バッキング・ボーカル）、ジミー・マカロック（ギター）、そしてドラムスにはジェフ・ブリトンとジョー・イングリッシュといった当時のウイングスの主要メンバーが参加しています。さらに、この楽曲のサウンドに厚みと奥行きを与えるために、ホーンやストリングスなどの楽器を演奏する多数のゲスト・ミュージシャンが招かれました。これらの多様なミュージシャンの参加により、「ワインカラーの少女」はウイングスの楽曲の中でも特にリッチで重厚なプロダクションが特徴的な一曲となっています。

商業的な大ヒットとはなりませんでしたが、「ワインカラーの少女」は『ヴィーナス・アンド・マッース』というアルバムを彩る重要な楽曲であり、ポール・マッカートニーの作曲家としての深みと、ウイングスのアンサンブル能力の高さを証明する隠れた名曲として、今なお多くのファンに愛されています。特に、異なるバージョンを聞き比べることで、この楽曲の様々な側面を楽しむことができるのも魅力の一つと言えるでしょう。

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