ワインラクトン

ワインラクトン：白ワインの芳醇な香りの秘密

ワインを飲む際に感じる、あの芳醇で複雑な香り。その奥深さには、様々な香気成分が複雑に絡み合っています。その中でも、白ワインに特有の、ココナッツや熟した果実を思わせる甘い香りを生み出す重要な成分として知られるのが「ワインラクトン」です。

発見の歴史

ワインラクトンは1975年、意外な場所から発見されました。それはコアラの尿です。科学者サウスウェルによって、コアラの尿から抽出された精油成分の中に、この化合物が含まれていることが確認されたのです。その後、数年を経た1970年代後半、グースによって白ワインにも含まれることが発見され、「ワインラクトン」と名付けられました。この発見は、ワインの香りの複雑さを解明する上で大きな一歩となりました。

その特徴とは？

ワインラクトンは、モノテルペンと呼ばれる一群の化合物に属します。リンゴ、オレンジ、グレープフルーツなどの柑橘系果物や、オレンジの花、クレメンタインの皮などにも含まれており、これらの素材が持つ爽やかで甘い香りに貢献しています。ワインラクトンは、白ワインに特有の、ココナッツのようなウッディーで甘い香りを付与する重要な役割を果たしています。

多くの異性体、そしてその中で最も重要なもの

ワインラクトンは、8種類の異性体（分子式は同じだが、原子の結合位置や立体配置が異なる化合物）が存在すると考えられています。しかし、ワインの中で実際に検出されるのは、その中の(3S, 3aS, 7aR)体のみです。この異性体は、他の異性体と比べて格段に香りが強く、なんと10ng/Lという極めて微量でもその香りを検知できるほどです。これは、ワインの香りに与える影響がいかに大きいかを示しています。

驚くほど敏感な人間の嗅覚

グースとヘルムートらの研究によると、空気中でワインラクトンの香りを感知できる閾値（つまり、香りが感じられる最低濃度）は、0.00001～0.00004 ng/Lという驚異的な数値です。これは、人間の嗅覚がいかに繊細で、微量な香気成分を感知できるかを物語っています。ワインラクトンは、その極めて低い閾値によって、ワインに豊かな香りを与えるのです。

ワインラクトンの役割

ワインラクトンは、ワインの香りの複雑さと奥行きを決定づける重要な要素です。その独特の甘い香りは、ワインの個性や品質を評価する上で重要な指標となります。ワイン醸造においては、ワインラクトンの生成量を制御することで、ワインの香りを調整することが可能になります。

まとめ

コアラの尿から発見され、白ワインの芳醇な香りを生み出すワインラクトン。その存在は、微量ながらワインの香りの複雑さと奥行きに大きな影響を与えています。この魅力的な化合物の研究は、ワインの品質向上や、より複雑で魅力的なワイン造りに貢献し続けているのです。

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