ワシントン・ローブリング

ワシントン・オーガストス・ローブリング：ブルックリン橋を繋いだ技術者

ワシントン・オーガストス・ローブリング（1837年5月26日 - 1926年7月21日）は、19世紀アメリカを代表する土木技術者の一人です。父であり、同じく橋梁技術者であったジョン・A・ローブリングと共に、ニューヨークの象徴とも言えるブルックリン橋の建設に深く関わり、その完成に大きく貢献しました。

若き日の歩みと南北戦争

ワシントンは、父ジョンが創設したペンシルベニア州サクソンバーグで生まれました。幼少期から家庭教師や学校で学び、1854年からはレンセラー工科大学（RPI）で土木工学を修めました。卒業後は父の元で橋梁技術者としてのキャリアをスタートさせ、アレゲニー川に架かる橋の建設プロジェクトを補佐しました。

1861年、南北戦争が開戦すると、ワシントンは北軍に志願し、砲兵隊の一員として従軍しました。ゲティスバーグの戦いなど、数々の激戦地を経験し、その勇敢な行動が認められ、最終的には大佐の位を得て除隊しました。ゲティスバーグの戦いでは、偵察部隊を率いてロバート・E・リー率いる南軍の動向をいち早く察知し、北軍の勝利に貢献しました。

ブルックリン橋の建設と苦難

南北戦争終結後、ワシントンは再び橋梁技術者としての道を歩み始めます。父ジョンと共にシンシナティ・コビントン橋（現ジョン・A・ローブリング橋）の建設に携わった後、1868年にブルックリン橋の主任技師となります。しかし、1869年に父ジョンが事故で亡くなったため、急遽チーフ・エンジニアの座を引き継ぐことになりました。

ブルックリン橋の建設は困難を極めました。特に、橋脚の基礎を築くためのケーソン工事は、高圧下での作業を強いられるものであり、多くの作業員が減圧症（ケーソン病）に苦しみました。ワシントン自身もこの病に侵され、下半身麻痺という重い後遺症が残りました。しかし、彼は決して諦めませんでした。病に伏せながらも、妻エミリー・ウォーレン・ローブリングの献身的なサポートを受け、自宅から望遠鏡で現場を監視し、指示を出し続けました。エミリーは、夫の言葉を現場に伝え、作業員とのコミュニケーションを図るなど、事実上の現場監督として活躍しました。彼女の存在なくして、ブルックリン橋の完成はあり得なかったと言えるでしょう。

その後の人生と遺産

1883年、ブルックリン橋はついに完成しました。ワシントンの不屈の精神と、エミリーのサポート、そして多くの人々の努力が結実した瞬間でした。橋の完成後、ワシントンはトロイに移り住み、その後トレントンに戻りました。1903年にエミリーが亡くなった後、1908年に再婚しました。

ワシントンは、趣味として岩石や鉱物の収集に熱心に取り組み、そのコレクションは1万6,000点を超える規模となりました。このコレクションは、後にスミソニアン博物館に寄贈され、同博物館の重要な鉱物・宝石コレクションの一部となっています。また、彼が残した原稿、写真、書物などは、ラトガース大学とレンセラー工科大学のローブリング・コレクションで見ることができます。

ワシントン・オーガストス・ローブリングは、困難に立ち向かい、不可能を可能にした偉大な技術者として、その名と業績は後世に語り継がれています。ブルックリン橋は、彼の不屈の精神と技術力の象徴として、今もなおニューヨークの空に聳え立っています。

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