ワタスゲ

ワタスゲ（綿菅）とは

ワタスゲ（学名：Eriophorum vaginatum）は、カヤツリグサ科ワタスゲ属に分類される多年草です。別名としてスズメノケヤリとも呼ばれています。北半球の寒冷な地域に広く分布しており、日本では北海道から中部地方以北の高山帯や亜高山帯の湿原に多く見られます。特に高層湿原では、大群生を形成することが多く、その風景は圧巻です。基準標本はヨーロッパのものが用いられています。

特徴

ワタスゲは、高さ30cmから50cm程度に成長します。開花時期は5月から6月で、花が終わると6月から8月にかけて、名前の由来ともなっている特徴的な白い綿毛をつけます。この綿毛は直径2cmから3cmほどになります。

綿毛について

ワタスゲの綿毛は、種子に付着した毛だと誤解されることがありますが、実際には種子（正確には果実、さらに言えば痩果）の基部から伸びる花被片が変化したものです。花被片とは、通常の花でいう萼や花弁にあたる部分です。カヤツリグサ科の花は、風媒花へと進化する過程で花被片を退化させ、地味な姿になりました。カヤツリグサ属やスゲ属では花被片が完全になくなっていますが、ワタスゲ属やホタルイ属などでは残存しています。ワタスゲの花被片は、開花時には糸状で目立ちませんが、果実が成熟するにつれて長く伸び、鱗片から目立つようになります。さらに、他の属では花被片が6枚程度であるのに対し、ワタスゲ属では10枚から25枚にも分裂するため、より目立つようになります。この綿毛は、タンポポの綿毛と同様に、風に乗って種子を遠くまで運ぶ役割を果たします。

近縁種

ワタスゲには、いくつかの近縁種が存在します。

チシマワタスゲ (Eriophorum scheuchzeri)：ユーラシア大陸に広く分布しています。
エゾワタスゲ (Eriophorum scheuchzeri var. tenuifolium)：大雪山などの高層湿原に分布する日本固有の変種です。
サギスゲ (Eriophorum gracile)：湿原に生育する近縁種です。

参考文献

清水建美、「ワタスゲ」：『朝日百科 植物の世界 10』,(1997)、朝日新聞社：p.242-243.
大橋広好他編、『改定新版 日本の野生植物 1 ソテツ科～カヤツリグサ科』、(2015)、平凡社
小山鐵夫、「ワタスゲ」：『朝日百科 世界の植物』、(1978)、朝日新聞社：p,2090-2091

関連項目

高山植物

外部リンク

ワタスゲの標本（山梨県八ヶ岳山麓で1947年7月12日に採集） - 千葉大学附属図書館

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