ワニグチツノザメ

ワニグチツノザメについて

ワニグチツノザメ（鰐口角鮫、英名: Viper dogfish、学名: Trigonognathus kabeyai）は、カラスザメ科に分類される稀なサメです。この種は主に日本近海で見られ、日中は水深300メートルの深海に生息し、夜間には表層に出てくる特異な行動パターンを持っています。最大で54センチメートルに達し、細身で円筒形の体型をしており、大きな三角形の顎と針のような歯を特徴的に持っています。さらに、無数の発光器が腹側に配置されており、これが生態的な役割を果たしていると考えられています。

分類と捕獲歴

このサメは1986年に初めて捕獲され、蒲郡市の漁港に所属する精漁丸によって、潮岬沖の水深330メートルで未成熟な雄が採集されました。続いて、徳島県日和佐町沖からも別の個体が得られ、1990年に東京大学の研究者によって新属新種として正式に記載されました。

属名の「Trigonognathus」は、ギリシャ語の「三角形」（trigonon）と「顎」（gnathus）に由来し、種小名の「kabeyai」は精漁丸の船長の名前にちなんでいます。初期の分類ではツノザメ科に含まれていましたが、1992年の研究によってカラスザメ亜科に再分類されました。

系統と進化

カラスザメ科は、異なる属性を持つクレードに分かれており、ワニグチツノザメの系統的な位置はまだ明確ではありません。しかし、系統解析によって、この種がカラスザメ類の基底に位置していることが示唆されています。分子解析の結果、ワニグチツノザメ属は始新世中期約4100万年前に出現したと考えられ、古代の種であるTrigonognathus virginiaeも発見されています。

体の特徴

ワニグチツノザメは、細長い体型を持ち、平たく短い吻や大きな楕円形の眼を備えています。顎は特に発達しており、長く狭い三角形の形状をしていて、ミツクリザメのように突出が可能です。歯は針状で間隔が広く、正中歯が最も大きく、他の歯は徐々に小さくなります。鰓裂は5対存在し、尾部は特徴的な形状をしています。

皮膚は密に覆われた菱形の皮歯で構成されており、背面は茶色から暗褐色、腹面には3つの明確な黒い模様を持っています。その模様の中には発光器が含まれ、捕食時やコミュニケーションに役立っていると考えられています。

生息域と生態

ワニグチツノザメは、主に北西太平洋地域に分布しており、紀伊半島周辺や小笠原諸島で多く見つかっています。特に小笠原では他の肉食魚の胃の中から多くの個体が発見されており、日中は深海に潜み、夜間は表層に近づく習性が確認されています。彼らの主な餌は硬骨魚で、特にハダカイワシ類や甲殻類を捕食します。

本種は、捕食時に顎を急速に伸ばし、獲物を丸呑みする独特の捕食方式を持ちます。これにより、体長の約40%に相当するサイズの餌を飲み込むことができます。雌は機能的な卵巣と子宮を1対持ち、通常は産仔数が26以下であると推測されています。

人との関わり

ワニグチツノザメは、非常に珍しい魚種であり、漁業的の価値はほとんどありません。商業的な漁具で偶然に捕獲されることはありますが、漁業がこのサメの個体数に及ぼす影響は未だに不明です。IUCNはこの種の保全状況を情報不足と評価しています。飼育記録も極めて希少で、2017年には沼津港深海水族館に展示されたものの、短期間で亡くなる事例も起きています。

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