ハダカイワシ

ハダカイワシは、学術的にはハダカイワシ目ハダカイワシ科に属する魚類の総称です。多くが世界の海洋の深海を含む中層域に生息し、昼夜で異なる水深を移動する独特の生態を持ちます。その英名「ランタンフィッシュ（lanternfish）」は、多くの種が体に発光器を持つことに由来しています。「ハダカイワシ」という和名は、この科に含まれる特定の種（Diaphus watasei）の標準和名でもありますが、ここでは主に科全体について解説します。

形態的に見ると、ハダカイワシ科の魚は、ニシン類に似たやや左右に平たい体型をしています。背びれの後方に小さな脂鰭（あぶらびれ）を持ち、口は比較的大きく体の正面を向き、目も大きく発達しています。「ハダカイワシ」という名前は、彼らの鱗が非常に剥がれやすく、漁獲される際に体が「裸」の状態に見えることにちなんでいます。体色は主に黒っぽい色から褐色を呈しており、大きさは最小3cm程度の小型種からトンガリハダカのように20cmを超える大型種まで多様ですが、全体的には10cm以下の種が多くを占めます。

ハダカイワシ科の最大の特徴の一つは、体の表面に備わる発光器です（ごく一部の種を除く）。この発光器の配置や数は種によって異なり、英名「ランタンフィッシュ」の直接的な由来となっています。発光器は、仲間とのコミュニケーション（群れ形成や繁殖）、自身のシルエットを不明瞭にする保護色（カウンターイルミネーション）、そして暗闇での餌の探査など、多様な機能を持つと考えられています。

彼らは、北極・南極周辺から赤道まで、世界の全ての海洋に広く分布しています。生息場所は、主に陸地から離れた外洋の、水深数百メートルから数千メートルに及ぶ中層や海底近くの深海です。多くの種に見られる顕著な生態が「日周鉛直移動（DVM: Diel Vertical Migration）」です。これは、昼間は暗い深海で過ごし、夜になると餌となる動物プランクトンを求めて水深数百メートルから、時には1500メートルもの距離を泳いで浅い層まで上昇する大規模な鉛直移動です。

外洋の生態系において、ハダカイワシ科の魚は極めて重要な役割を担っています。彼らはプランクトンを捕食し、そのエネルギーと栄養分を食物連鎖の上位へと伝達する「栄養伝達者」として機能します。その資源量は地球上で最も多いグループの一つと言われるほど膨大であり、マグロ、カジキ、サメなどの大型魚類、イカ類、ペンギンといった海鳥、クジラなどの海棲哺乳類といった、海の多くの捕食動物にとって主要な食料源となっています。さらに、日周鉛直移動を通じて、表層で得たエネルギーを、日中の深い層への移動を通じて深海へと輸送する役割も果たしていると考えられています。

これほど豊富な資源量を持つにもかかわらず、ハダカイワシ科の魚が商業的な漁獲の主要な対象となることは世界的にもほとんどありません。また、食用として一般的に利用されることも少ないのが現状です。しかし、一部の地域では、焼き魚、唐揚げ、練り製品の原料などに加工されて食されることもあります。ハダカイワシを食べると下痢をすると言われることがありますが、これはヒトの消化器官で吸収されにくいワックスエステルという脂質を筋肉に含む一部の種（主に日周鉛直移動を行わない種）に限られた話であり、ほとんどの種はイワシやサバと同様の消化可能な脂質構成です。

分類学上、「イワシ」という名前を持ちますが、真のイワシ類（ニシン目）とは直接の類縁関係はありません。ハダカイワシ科は、同じハダカイワシ目に含まれるソトオリイワシ科に最も近いとされています。ハダカイワシ目全体の最も古い化石は、約1億年前の白亜紀後期の地層から発見されています。ハダカイワシ科は非常に多様性に富むグループで、現在までに30を超える属と、およそ250近い種が確認されています。これらの多数の種を区別する際には、一般的な形態特徴に加え、発光器の数、位置、大きさが非常に重要な手がかりとなります。ハダカイワシ科は、さらに2つの亜科の下に分類されています。

特定の種名としての「ハダカイワシ」（学名: Diaphus watasei）は、ハダカイワシ属（Diaphus）の一種を指します。この種は、日本の相模湾から東シナ海を経てフィリピン沖にかけての大陸棚や大陸斜面の周辺に分布しています。ハダカイワシ科の中では比較的大きく成長する種の一つで、全長は20cm近くに達することもあります。生態としては、昼間は水深300〜600メートル程度の深みで過ごし、夜間に水深100メートル前後まで浮上するという日周鉛直移動を行います。地方によっては食用とされることもあり、夏が旬とされています。

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