ワルソー・コンチェルト

『ワルソー・コンチェルト』（英語：Warsaw Concerto）は、イギリスの作曲家リチャード・アディンセルが1941年に発表した、ピアノ協奏曲の形式を持つ楽曲です。この曲は、映画『危険な月光』（Dangerous Moonlight）のテーマ音楽として作曲されました。『戦雲に散る曲』や『Suicide Squadron（特攻飛行中隊）』といった別名でも知られています。映画音楽として作られたにもかかわらず、その美しい旋律とドラマティックな展開から、独立した演奏会用作品としても広く親しまれています。

この映画は、第二次世界大戦を背景に、戦闘機パイロットとしてのトラウマを抱えるピアニスト兼作曲家が、愛と祖国への想いに葛藤する物語です。主人公は、ナチス・ドイツ占領下のポーランドからイギリスへ逃れますが、祖国へ戻って戦うことを決意します。映画では、主人公が自らピアノを演奏するシーンが登場しますが、実際のサウンドトラックで演奏を担当したのは、ピアニストのルイス・ケントナーでした。

映画制作にあたり、製作者側はセルゲイ・ラフマニノフの作風を強く求めていました。特に、《パガニーニの主題による狂詩曲》や《ピアノ協奏曲第2番》,《第3番》のような、ロマンティックで技巧的な楽曲を要望し、ラフマニノフ本人に作曲を依頼しましたが、交渉は成立しませんでした。そこで白羽の矢が立ったのが、アディンセルでした。彼は、ラフマニノフの楽譜が揃えられた部屋に籠り、作曲に専念したと言われています。このエピソードからも、映画製作者がラフマニノフの音楽をいかに強く求めていたかが伺えます。

アディンセルは、この楽曲の作曲において、管弦楽法の大家であるロイ・ダグラスの協力を得ています。ダグラスは、オーケストレーションにおいて重要な役割を果たしましたが、その貢献は今日まで十分に認識されているとは言えません。アディンセルによる美しい旋律と、ダグラスによる巧みなオーケストレーションが組み合わさることで、『ワルソー・コンチェルト』は、映画音楽の枠を超えた、不朽の名作として愛されています。また、この曲の主題の一つは、後にポピュラー・ナンバー《The world outside will never know...》に転用され、さらに多くの人々に親しまれるようになりました。

『ワルソー・コンチェルト』は、その美しい旋律と劇的な展開から、映画音楽としてだけでなく、独立したピアノ協奏曲としても高く評価されています。今日でも多くのピアニストによって演奏されており、クラシック音楽ファンのみならず、幅広い層の人々に愛され続けています。映画のストーリーと相まって、聴く人の心に強く訴えかけるこの楽曲は、アディンセルとダグラスの才能が融合した、稀有な作品と言えるでしょう。

もう一度検索