ロイ・ダグラス

リチャード・ロイ・ダグラス（Richard Roy Douglas, 1907年12月12日 - 2015年3月23日）は、イギリスの作曲家、ピアニスト、そして卓越した編曲家として、20世紀の音楽界に深い足跡を残しました。彼は、レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ、ウィリアム・ウォルトン、リチャード・アディンセルといった著名な作曲家たちの音楽アシスタントとして活躍し、特にフレデリック・ショパンの楽曲を基にしたバレエ音楽『レ・シルフィード』の管弦楽編曲、そしてアディンセルの『ワルソー・コンチェルト』の編曲で広く知られています。

キャリアの初期

ダグラスは、ロイヤル・タンブリッジ・ウェルズで生まれ、独学で音楽の才能を開花させました。初期のキャリアでは、映画音楽の制作に携わり、『Karma』（1933年）や『ディック・ターピン』（1933年）などの作品で経験を積みました。その後、ミーシャ・スポリアンスキー、アーサー・ベンジャミン、アンソニー・コリンズ、ニコラス・ブロズスキー、ノエル・カワード、ジョン・アイアランド、ワルター・ゲールといった多くの作曲家の作品で音楽アシスタントとして貢献しました。

アディンセルとの協力関係

1937年、ダグラスは映画『間諜』の音楽制作でリチャード・アディンセルと初めて共同作業を行いました。この協力関係は、その後も数々の映画で継続され、『Victoria the Great』（1937年）、『ライオンの翼』（1939年）、『ガス燈』（1940年）、そして『危険な月光』（1941年）といった作品で、ダグラスはアディンセルの音楽を支えました。

特に『ワルソー・コンチェルト』は、ダグラスが深く関与した作品として知られています。アディンセルには音楽的なひらめきはあったものの、管弦楽法には未熟な点があったとされ、ダグラスの役割は単なる助手や写譜者にとどまらなかったと考えられています。一部では、『ワルソー・コンチェルト』は完全にダグラスの手によるものだとする意見もあります。

ウォルトンとの協力関係

ウィリアム・ウォルトンとの長年の協力関係も、ダグラスのキャリアにおいて重要な部分です。1940年の映画『バーバラ少佐』を皮切りに、『Went the Day Well?』、『Next of Kin』、『The First of the Few』（1942年）、そして『ヘンリィ五世』（1944年）といった作品で、ダグラスはウォルトンの音楽を支えました。彼の仕事は、ウォルトンのスケッチを基に、映画音楽の管弦楽編曲を行うことでした。また、ウォルトンは『The Bells Go Down』の音楽をダグラスに委嘱することを提案するなど、ダグラスの才能を高く評価していました。

さらに、ウォルトンのバレエ音楽『尋問』の完成をアーネスト・アーヴィングと共に手伝ったり、組曲『ファサード』のピアノ編曲にも携わったりしました。オラトリオ『ベルシャザールの饗宴』の改訂、オペラ『トロイラスとクレシダ』の声楽譜の作成など、ウォルトンの作品に多岐にわたって貢献しました。

ヴォーン・ウィリアムズとの協力関係

ダグラスは、1947年からレイフ・ヴォーン・ウィリアムズが亡くなる1958年まで、彼の音楽助手として、また筆記者として活動しました。ヴォーン・ウィリアムズの楽曲の判読可能な写譜を作成する過程で、管弦楽法に関する様々な問題点を明らかにし、作曲者の判読困難な草稿を解読しました。ダグラスは多くの改善提案を行い、その多くが採用されました。交響曲第6番から第9番、オペラ『天路歴程』、そして『チューバ協奏曲』といった作品で、ダグラスはヴォーン・ウィリアムズの音楽制作に深く関わりました。

ダグラスは、ヴォーン・ウィリアムズの音楽家としての技術を最もよく知る人物の一人として評価されています。彼は、ヴォーン・ウィリアムズの新しい楽曲のほとんどを、略記された楽譜の形でしか見ることができませんでしたが、その中でも『チューバ協奏曲』の清書を12日間で仕上げるなど、非常に重要な役割を果たしました。また、カンタータ『四季の民謡』から編まれた管弦楽組曲がダグラスの作品として出版されたことからも、彼のヴォーン・ウィリアムズ作品への関与の深さが窺えます。

その他の活動と晩年

ダグラスは、自身の作曲家としての才能も発揮し、オーボエ四重奏曲、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラとハープのための四重奏曲、弦楽のための『エレジー』など、数多くの作品を残しました。また、ショパン、リスト、ヴォーン・ウィリアムズなどの作品の編曲も行い、その才能を発揮しました。ダグラスは、107歳という長寿を全うし、2015年3月23日にその生涯を閉じました。

リチャード・ロイ・ダグラスは、編曲家、作曲家、音楽助手として、20世紀の音楽界において重要な役割を果たし、多くの作曲家たちの作品を支え、自身の才能を音楽史に刻んだ人物として、後世に語り継がれるでしょう。

主要作品

自作曲

オーボエ四重奏曲 (1932年)
フルート、ヴァイオリン、ヴィオラとハープのための2つの四重奏曲 (1934年/1938年)
フルート、ヴァイオリンとヴィオラのための三重奏曲 (1935年)
管楽五重奏のための『Six Dance Caricatures』 (1939年)
弦楽のための『2つのスコットランドの曲 Two Scottish Tunes』 (1939年)
『弦楽のためのエレジー Elegy for strings』 (1945年)
『弦楽のためのカンティレーナ Cantilena for strings』 (1957年)
弦楽のための『Festivities』と『A Nowell Sequence』 (1991年)
5つの長編映画と6つのドキュメンタリー映画のための音楽
32のラジオ番組のための音楽

編曲作品

フレデリック・ショパン: 『レ・シルフィード』 (1936年)
リチャード・アディンセル: 『ワルソー・コンチェルト』 (1941年) 映画『危険な月光』より
ロード・バーナーズ: バレエ音楽『Les Sirènes』(1946年)
フランツ・リスト: 『葬送曲』
* レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ: 歌曲集『旅の歌』

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