ワルツ第11番 (ショパン)

フレデリック・ショパンが手掛けた数多くのワルツ作品の中でも、没後に出版されたグループに属するのが、ワルツ第11番 変ト長調 作品70-1です。この作品は1832年に作曲されましたが、生前には公にされず、ショパンの死後である1855年に友人であったユリアン・フォンタナによって他の作品と共に日の目を見ることとなりました。作品70は3つのワルツ（第10番、第11番、第12番）で構成されており、いずれもショパンの死後に出版されたものです。第11番はその中でも特に広く親しまれている一曲と言えるでしょう。

楽曲は「ヴィヴァーチェ（Vivace）」、つまり非常に速く活き活きとしたテンポで始まります。主部である変ト長調の部分は、踊るような軽快さと華やかさに満ちています。右手による旋律は、広範な音域を大きく飛び跳ねるような動きを含んでおり、その技巧的なきらめきがこのワルツに輝きを与えています。これに対し、左手は比較的簡潔な和音の伴奏形を刻み、右手の華麗な動きを安定したリズムで支えます。全体を通して感じられるのは、サロンで繰り広げられる舞踏会の熱狂や、優雅なステップを踏む人々の姿を彷彿とさせる、明るく祝祭的な雰囲気です。ショパンのワルツの中では、しばしば第7番 嬰ハ短調 作品64-2と比較されることがあります。第7番が憂鬱で内省的な雰囲気を持つ一方で、この第11番はそれとは対照的に、開放的で楽天的な性格を前面に出しており、ショパンのワルツにおける両極端を示すかのような存在とも言えます。二つのワルツは、それぞれ異なる魅力で聴き手の心を掴みます。

曲が進むと、中間部へと移行します。この部分では、主部とは対照的な、より落ち着いた、そしてどこか感傷的な雰囲気が支配的となります。調性は主部の変ト長調から、その下属調にあたる変イ短調へと移ります。短調となることで、それまでの華やかさから一転し、深い情感をたたえたメロディーが歌われます。ここは急速な動きは影を潜め、静かに内面を見つめるような、あるいは過ぎ去った喜びを懐かしむような、メランコリックな響きに満ちています。変イ短調という調性が持つ独特の憂いが、この部分の雰囲気をより一層印象深いものにしています。主部の躍動感あふれる旋律と、中間部の静謐で物憂げな旋律とのコントラストが、このワルツの奥行きを生み出しています。

このワルツ第11番は、作曲者自身による自筆譜が確定していないこともあり、フォンタナ版に基づく現在の形が定着しています。作品が死後出版されたことで、ショパンが生前に想定していた形とは異なる可能性も指摘されることがありますが、現在聴かれるこの版によって、作品は広く受け入れられています。特に、ミハイル・フォーキン振付のバレエ『レ・シルフィード』において、他のショパン作品と共に音楽として使用されたことは、このワルツがクラシック音楽の愛好家以外にも広く知られるきっかけとなりました。バレエの舞台で、森の妖精たちが舞う情景にこのワルツの音楽が使われたことは、その音楽が持つファンタジックな美しさや、軽やかでありながら情感豊かな表現力が認められた証拠と言えるでしょう。華やかさと哀愁という、一見相反する二つの要素が見事に融合したワルツ第11番は、今もなお多くの人々に愛され続けています。

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