レ・シルフィード

『レ・シルフィード』（Les Sylphides）は、フレデリック・ショパンのピアノ曲を管弦楽に編曲したバレエ作品で、その美しい旋律と優雅な舞踊が特徴です。別名『ショピニアーナ』（Chopiniana）としても知られています。

作品の概要

このバレエは、ミハイル・フォーキンによって振り付けられ、1907年にマリインスキー劇場で初演されました。物語性よりも、バレエの純粋な美しさを追求した作品であり、劇的な展開や複雑なストーリーは存在しません。舞台は月明かりが照らす幻想的な森で、詩人（ショパンをイメージさせる）と精霊（シルフィード）たちが、ロマンティックな雰囲気の中で踊り明かす様子が描かれます。

フォーキンは初演後も作品の改訂を重ね、1909年6月にはバレエ・リュス第1回公演（パリ・シャトレ座）で第3版を上演。このバージョンが現在広く知られている形となりました。

編曲の変遷

初演時には、アレクサンドル・グラズノフが編曲した4曲に加え、フォーキンが追加注文したワルツ嬰ハ短調の計5曲が使用されました。

軍隊ポロネーズ
夜想曲ヘ長調
マズルカ作品50-3
タランテラ

しかし、これらの楽曲はバレエ音楽としては必ずしも最適ではなかったため、後にロイ・ダグラスによる編曲が広く用いられるようになりました。

ロイ・ダグラス編曲による現行版では、以下の楽曲が使用されています。

前奏曲イ長調
夜想曲変イ長調
ワルツ変ト長調
マズルカ作品33-2
マズルカ作品67-3
ワルツ嬰ハ短調（序奏に練習曲作品25-7の序奏部を使用）
* 華麗なる大円舞曲

ロイ・ダグラスの編曲は、ショパンの旋律美を最大限に活かしており、その巧みな構成は高く評価されています。日本国内でも「ショパンはお好き」といったタイトルで、数多くの録音媒体が紹介されています。

なお、ロイ・ダグラス編曲版以外にも、ロジェ・デゾルミエールによる編曲版が存在します。デゾルミエール自身による録音も残されていますが、現在ではあまり顧みられることはありません。

舞台構成

以下に、舞台構成における各楽曲の配置を示します。

1. 前奏曲イ長調
2. 夜想曲変イ長調（全員の踊り）
3. ワルツ変ト長調（女性ソリストのヴァリアシオン）
4. マズルカ作品33-2（女性ソリストのヴァリアシオン）
5. マズルカ作品67-3（女性ソリストのヴァリアシオン）
6. 前奏曲イ長調（女性ソリストのヴァリアシオン）
7. ワルツ嬰ハ短調（パ・ド・ドゥ）
8. ワルツ（華麗なる大円舞曲）（全員の踊り）

その他の情報

『レ・シルフィード』は、ロマンティック・バレエの代表作である『ラ・シルフィード』（La Sylphide）と混同されることがありますが、両作品に共通点は、シルフィードが登場することのみです。音楽もストーリーも全く異なります。

また、1923年にはパリのオペラ座で、ルイ・オベールがショパンの作品を管弦楽に編曲したバレエ『魅せられた夜』（La Nuit ensorcelée）が上演されています。この作品は二幕構成で、レオ・スターツが振り付けを担当しました。

『レ・シルフィード』は、その優雅で幻想的な世界観と、ショパンの美しい音楽が見事に融合した、バレエ史に残る名作として、今も世界中で愛され続けています。

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