ワンダフル・トゥナイト

ワンダフル・トゥナイト（Wonderful Tonight）

「ワンダフル・トゥナイト」は、イギリスのギタリスト兼シンガーソングライターであるエリック・クラプトンによって生み出された珠玉のバラードです。彼の代表的なアルバム『スローハンド』（1977年発表）に収められた後、翌1978年にはシングルとしてカットされ、世界的なヒットを記録しました。

楽曲の背景

この楽曲は、クラプトンの当時のパートナーであり、後に彼の妻となるパティ・ボイドへの想いを込めて書かれたものです。パティは、クラプトンの親友でもあったザ・ビートルズのジョージ・ハリスンの元妻であり、クラプトンの名曲「レイラ」のインスピレーション源としても知られています。

「ワンダフル・トゥナイト」が誕生した夜は、1976年9月7日。ポール・マッカートニーとリンダ夫妻が毎年開催していたバディ・ホリーを偲ぶパーティーへ向かう前のことでした。パティがパーティーのために身支度を整えるのに時間をかけている間、彼女を待っていたクラプトンが、その場でインスピレーションを得てこの美しい曲を書き上げたと言われています。

パティ・ボイド自身も、その自叙伝『ワンダフル・トゥナイト：ジョージ・ハリスン、エリック・クラプトン、アンド・ミー』の中で、この曲にまつわるエピソードを詳細に綴っています。

パティ・ボイドの複雑な想い

パティ・ボイドにとって、「ワンダフル・トゥナイト」は喜びと苦痛が入り混じる複雑な歌でした。彼女は、自分自身のためにこのような素晴らしい音楽が書かれたことに、当初は無上の喜びを感じていました。

「エリック（そして彼の前にはジョージも）をその気にさせてこんな音楽を書かれたら舞い上がるほどに嬉しかった」と彼女は後に語っています。そして、「ワンダフル・トゥナイト」は、二人の関係がまだ良好だった頃の最も強烈で幸福な記憶を呼び起こさせる歌だったと言います。

しかし、残念ながら二人の関係は後に悪化していきます。関係が破綻へと向かっていく中で、かつての幸福な日々を歌ったこの曲を聞くことは、パティにとって耐えがたい苦痛となりました。「物事が悪い方向へ行き始めてからこの歌を聞くのは拷問を受けるようなものだったわ」と、彼女はこの名曲に対する相反する感情を率直に述べています。

ライブでのパフォーマンス

クラプトンは長年にわたりこの曲を演奏し続けています。特に印象的なエピソードとしては、1988年にロンドンのウェンブリー・スタジアムで開催された「ネルソン・マンデラ70歳記念コンサート」でのパフォーマンスが挙げられます。このコンサートにダイアー・ストレイツのゲスト・ギタリストとして出演したクラプトンは、ダイアー・ストレイツをバックバンドに従え、観客へのサプライズとして「ワンダフル・トゥナイト」を披露しました。

主なカバーバージョン

「ワンダフル・トゥナイト」は、その普遍的な魅力から多くのアーティストによってカバーされています。主な例としては以下のようなものがあります。

チャーリー・リッチ: 1980年のアルバム『Once A Drifter』に収録。
バッチ・ベイカー（Butch Baker）: 1989年にビルボードのホット・カントリー・ソング・チャートで66位を記録。
デヴィッド・カーシュ（David Kersh）: 1998年にビルボードのカントリー・チャートで29位を記録。
ドン・ウィリアムズ（Don Williams）: 2004年のアルバム『マイ・ハート・トゥー・ユー』に収録。
ダメージ（Damage）: イギリスのR&Bグループ。1997年にシングルとして発売し、全英シングルチャートで3位という成功を収めました。
ワレン・ヒル（Warren Hill）: スムーズジャズのサクソフォーン奏者。2002年のアルバム『ラヴ・ソングス』でカバー。

日本での使用例

日本では、1992年1月から3月にかけてフジテレビ系列で放送されたテレビドラマ「しあわせの決断」の主題歌として使用され、広く知られることとなりました。

ドラマで使用されたのはオリジナルのクラプトン版ですが、劇伴音楽としては渡辺博也による編曲で、インストゥルメンタル版（エレキギターバージョンとオーケストラバージョン）も制作されました。これらのバージョンは、ドラマのオリジナルサウンドトラックや、渡辺博也が音楽を手がけたドラマの劇伴音楽を収録したオムニバスアルバム「サウンドトラックス フォー ラバーズ」にてCD化されましたが、現在はいずれも廃盤となっています。

まとめ

エリック・クラプトンの「ワンダフル・トゥナイト」は、特定の人物に向けられた個人的な愛の歌でありながら、そのシンプルで美しいメロディと、愛する人の輝きをたたえる歌詞によって、世界中の多くの人々に共感され、時代を超えて歌い継がれるスタンダードとなりました。楽曲の背景にある複雑な人間ドラマも含め、その魅力は色褪せることがありません。

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