ワン・フロム・ザ・ハート (アルバム)

『ワン・フロム・ザ・ハート』は、1982年に公開された同名映画のサウンドトラックアルバムであり、トム・ウェイツとクリスタル・ゲイルという異色の組み合わせによる共演が話題を呼んだ作品です。監督のフランシス・フォード・コッポラは、当初ヴァン・モリソンに音楽を依頼しましたが、実現には至りませんでした。その後、彼の息子ジャン・カルロがトム・ウェイツのアルバム『異国の出来事』を聴かせたことをきっかけに、ウェイツに白羽の矢が立ちました。

特に、ベット・ミドラーとのデュエット曲「アイ・ネヴァー・トーク・トゥ・ストレンジャー」が、コッポラの心を捉えたと言われています。しかし、ミドラーは都合がつかず、代わりにクリスタル・ゲイルが参加することになりました。音楽評論家のThom Jurekは、このアルバムにおけるウェイツとゲイルの歌唱を「歴史上最も美しく練られたサウンドトラックでの共演の一つ」と絶賛し、「ウェイツやゲイルのファンの棚には不可欠の一枚」と評しています。

このサウンドトラックは、全曲トム・ウェイツが作曲しており、彼の独特な音楽性と、ゲイルの伸びやかな歌声が絶妙に調和しています。2004年にはリマスター盤が発売され、ボーナストラックが追加されたほか、ジャケットデザインも変更されました。リマスター盤のライナーノーツには、コッポラ自身が2003年に書き下ろしたコメントも掲載されており、作品への深い愛情が感じられます。

収録曲は、オープニングを飾る「オープニング・モンタージュ」から、印象的なタイトル曲「ワン・フロム・ザ・ハート」まで、バラエティに富んでいます。トム・ウェイツとクリスタル・ゲイルがデュエットする楽曲の他、ゲイルがソロで歌い上げる曲、ウェイツが独特のハスキーボイスで歌う曲が収録されています。また、インストゥルメンタル曲も含まれており、映画の雰囲気を音楽で再現しています。

このアルバムからは、ホリー・コールが「リトル・ボーイ・ブルー」と「テイク・ミー・ホーム」をカバーしたり、アンネ・ゾフィー・フォン・オッターとエルヴィス・コステロが「壊れた自転車」をメドレー形式でカバーしたりするなど、後世のアーティストにも大きな影響を与えています。

参加ミュージシャンには、トム・ウェイツ自身の他に、ボブ・アルシヴァー、ピート・ジョリーといった実力派ミュージシャンが名を連ねています。また、デニス・バディマー、グレッグ・コーエン、シェリー・マンなどの名手たちも、この作品のサウンドを支えています。管楽器セクションも充実しており、テディ・エドワーズ、ジャック・シェルドン、チャック・フィンドレーなど、錚々たるメンバーが参加しています。

サウンドトラックとしてだけでなく、独立した音楽作品としても非常に評価の高い『ワン・フロム・ザ・ハート』は、トム・ウェイツとクリスタル・ゲイルという、異なる魅力を持つ二人のアーティストが、映画音楽という舞台で融合した稀有な例として、音楽史にその名を刻んでいます。映画ファンはもちろんのこと、音楽ファンにとっても、必聴の一枚と言えるでしょう。

収録曲

1. オープニング・モンタージュ（ピアノ・イントロ/ワンス・アポン・ア・タウン/恋の報い）
2. 夢の出口は?
3. ピッキング・アップ・アフター・ユー
4. オールド・ボーイフレンズ
5. 壊れた自転車
6. アイ・ベッグ・ユア・パードン
7. リトル・ボーイ・ブルー
8. インストゥルメンタル・モンタージュ（タンゴ/サーカス・ガール）
9. 悔恨の鐘
10. ワン・フロム・ザ・ハート
11. テイク・ミー・ホーム
12. プレゼンツ
13. キャンディ・アップル・レッド
14. ワンス・アポン・ア・タウン/エンプティ・ポケット

リードボーカル

トム・ウェイツ&クリスタル・ゲイル - 1,3,10
クリスタル・ゲイル - 2,4,11
トム・ウェイツ - 5,6,7,9,13,14
インストゥルメンタル - 8,12

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