ワークプレース・シェル

ワークプレース・シェル（WPS: WorkPlace Shell）は、IBMがOS/2オペレーティングシステムのために開発した、高度なオブジェクト指向グラフィカルユーザーインターフェース（GUI）環境です。Presentation Manager (PM) の上で動作するシェルとして実装され、当時のPC用市販OSの標準機能としては画期的な、マウスの2つのボタンを効果的に活用した操作体系を初めて採用しました。

この操作体系は、ユーザーがオブジェクト（アイコン）を左ボタンで選択し、右ボタンで関連する操作を実行するというもので、直感的で効率的な操作を可能にしました。OS/2のバージョンアップに伴い、WPSの機能は拡張され続け、多くのユーザーから高い支持を得ました。

WPSの主な特徴としては、以下のような点が挙げられます。

フォルダーごとの壁紙設定: 各フォルダーに異なる壁紙を設定することができ、視覚的に整理されたデスクトップ環境を構築できました。
ウィンドウの自動配置: 選択したウィンドウを、画面上の適切な場所に自動的に配置する機能が提供され、ウィンドウ管理が容易になりました。
オブジェクト操作: オブジェクト（アイコン）を左ボタンで選択し、右ボタンで操作を実行するスタイルは、直感的で効率的な操作を可能にしました。
設定ノートブック: オブジェクトの詳細な設定は、設定ノートブック（プロパティ）を通じて行われました。これにより、各オブジェクトの振る舞いや外観を細かく調整できました。
* SOM（System Object Model）の採用: WPSは、System Object Model（SOM）を本格的に採用しており、Smalltalkの影響を受けたデスクトップの構成要素をクラスオブジェクトとして扱いました。これにより、パーツの作成はクラスの継承を通じて行い、設定はクラスのプロパティとして管理することができました。ユーザーは共通の設定ノートブックを通じてこれらの設定を変更することができ、高度なカスタマイズが可能でした。この構造により、デスクトップのカスタマイズパーツを比較的容易に作成することができましたが、その反面、バグに対する脆弱性も抱えており、バグが発生するとデスクトップ全体がハングアップする問題も存在しました。

IBMは、このWPSを当時のWindows 3.1やMS-DOS、さらには自社のUNIXであるAIX上でも利用できるように計画していましたが、一般ユーザーへの普及はほとんど進みませんでした。しかし、OS/2の経験者の中には、現在でも「WPSをLinux上のX Window System用のGUI環境として実現してほしい」という声が根強く残っています。これは、WPSが提供した高度な操作性とカスタマイズ性が、多くのユーザーにとって魅力的なものであったことを示しています。

関連事項として、「ワークプレース」という言葉が、オフィス環境における作業場所や環境全般を指す概念として用いられることもあります。

WPSは、その革新的なオブジェクト指向の設計と高度なカスタマイズ性により、GUIの歴史において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

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