ワ号事件 (連続窃盗事件)

ワ号事件

ワ号事件は、1948年（昭和23年）末頃より、日本の東北地方で横行した大規模な連続窃盗事件です。この事件には朝鮮人による窃盗団が関与し、宮城県、岩手県、山形県、福島県の広範囲にわたり、店舗や倉庫を標的とした犯行を繰り返しました。事件名の「ワ号」は、初期の捜査を担当した国家地方警察宮城県涌谷地区警察署にちなみ、涌谷（わくや）の頭文字「ワ」から命名されました。

事件の発生は1948年末頃に遡ります。宮城県、岩手県、山形県の3県を中心に、土蔵破りや店舗荒らしといった窃盗事件が頻発するようになり、住民の間で不安が広がりました。これらの事態を受けて、国家地方警察宮城県涌谷地区警察署は、管内での被害を契機として、事件の捜査本部を設置し、本格的な捜査を開始しました。

捜査は困難を極めましたが、1949年5月7日、重要な手がかりが発見されます。盗品の一部であった腰巻の真綿が見つかった際、それに胡桃の葉と鋸屑が付着していることが確認されました。さらにその近くからは、犯人のものとみられる排泄物が発見されました。この排泄物を鑑定したところ、細かく刻まれたトウガラシが混入していることが判明します。これらの奇妙な証拠から、「犯行前にトウガラシを摂取しており、近くに胡桃の木がある新築、あるいは増改築された建物に居住している可能性がある」という、独特な仮説が立てられました。

この仮説に基づき、警察は地道な聞き込みと捜査を進めます。その結果、実際に胡桃の木がある民家が存在し、最近増築された納屋に朝鮮人の夫婦が住み込んでいることが明らかになりました。さらに、その妻が事件の盗品と一致する衣服を着用していることが確認され、この夫婦が事件に関与している可能性が極めて高いと判断されました。

決定的な証拠を得て、同年9月13日、警察はこの夫婦の夫を逮捕し、取り調べを開始しました。取り調べの結果、事件は一組の夫婦によるものではなく、約60名もの構成員からなる大規模な窃盗団によって組織的に行われていたことが明らかになります。この逮捕を皮切りに、窃盗団の関連メンバーが次々と検挙されていき、事件の全容解明が進められました。

捜査は1950年2月10日まで続けられ、最終的に宮城県、岩手県、山形県に加え、福島県を含む4県にわたる広範囲な犯行が確認されました。確認された犯行件数は、窃盗罪130件、贓物罪40件、横領罪2件の合計172件に及びました。これらの犯行による被害総額は、当時の金額で1000万円という巨額に達しました。

窃盗団の犯行手口は組織的でした。通常、3人前後のグループで行動し、夜間に店舗や倉庫に侵入しました。主に狙われたのは、衣類や米穀、自転車といった比較的小型で換金しやすい物品でした。盗まれた品物は、北海道や大阪といった遠方の古物商に持ち込まれて換金され、その犯罪収益は窃盗団内の地位や犯行への貢献度に応じて分配されていたとされています。

一連の捜査を経て、この事件に関与したとして40人近くが起訴されました。裁判の結果、個々の被告人に対し、懲役6ヶ月から6年の実刑判決が言い渡されました。ワ号事件は、戦後混乱期の東北地方における組織犯罪の一例として、当時の社会情勢を物語る事件となりました。

もう一度検索