ワ州連合軍

ワ州連合軍 (UWSA)

ワ州連合軍（United Wa State Army, 略称: UWSA）は、ミャンマー連邦共和国の北東部に位置するワ自治管区を含むワ州を事実上支配する少数民族武装組織であり、その政治部門であるワ州連合党の軍事部門にあたります。ワ族を主体とするこの軍隊は、推定2万から3万人の兵力を有し、少数民族武装勢力としてはミャンマー最大規模を誇ります。現在の事実上の指導者はパオ・ユーチャンです。

ミャンマー政府はワ州の主権を公式には認めていませんが、ワ州はミャンマーの領土全体に対する政府の主権を形式的に容認しています。政府との関係は複雑で、国軍とUWSAが協力して他の武装勢力（例えばシャン州軍 (南)）と戦うこともあれば、一定の緊張関係も存在します。両者は1989年に停戦合意を結び、2013年には和平協定にも署名しています。

歴史

UWSAの起源は、1989年3月から4月にかけて発生したビルマ共産党（CPB）の内部崩壊に遡ります。長年の党幹部への不満から、コーカン族部隊の反乱に続き、パオ・ユーチャンやチャオ・ニーライが率いるワ族主体の第12旅団がCPB本部を襲撃し、党を瓦解させました。CPBから分かれた主要4組織の一つとして、元CPB兵士の80%を占めたワ族はビルマ民族統一党（BNUP）を結成。同年11月、当時の軍事政権である国家法秩序回復評議会（SLORC）と停戦協定を結び、ワ族支配地域は正式に「シャン州第2特区」と位置づけられました（後に2008年憲法でワ自治管区に改組）。BNUPは、泰緬国境地帯で活動していたワ民族評議会（WNC）と合併し、ワ州連合党（UWSP）およびその軍事部門UWSAが誕生しました。これにより、UWSP/UWSAは北部のワ丘陵地帯に加え、南部の泰緬国境沿いの飛び地を非公式に支配下に収めることとなります。

経済的基盤の変化

停戦合意により支配地域内での活動の自由を得た旧CPB勢力は、アヘン栽培とヘロイン生産を急速に拡大させました。特に泰緬国境地帯を支配下に置いたUWSAは、魏三兄弟などの実力者を中心に麻薬ビジネスで莫大な利益を上げ、「黄金の三角地帯」におけるヘロイン生産・取引の主要勢力となりました。アヘンケシ栽培面積とヘロイン生産量は1989年以降急増しましたが、同じくヘロイン生産者であった「麻薬王」クン・サ率いるモン・タイ軍（MTA）との抗争を経て、UWSAは国軍の支援も得ながらこれを破り、地域での支配を固めました。

しかし、中国との国境貿易の活発化に伴い、ミャンマーから中国へのヘロイン密輸が激増し、中国当局はワ州指導部へ厳しい圧力をかけました。この圧力に加え、国際市場での競合激化もあり、UWSAは1995年にアヘン栽培の全面禁止を声明。1997年には中国ルートでの麻薬密輸停止を約束しました。1997年以降、ミャンマーのアヘン生産量は顕著に減少します。

ヘロイン生産が下火になる一方、UWSAは新たな資金源としてメタンフェタミン（ヤーバー）に着目しました。1996年にUWSA内で実力者となった魏学剛は、タイの麻薬王バン・ロンと協力し、ワ州南部を拠点にヤーバーの大規模生産を開始。UWSA産のヤーバーはタイを中心に瞬く間に流通し、麻薬乱用を深刻化させました。このヤーバービジネスにより、魏学剛を含むUWSA幹部はアメリカ麻薬取締局（DEA）から「麻薬王」に指定され、国際的な起訴に直面しました。UWSAは2005年に麻薬全面禁止を宣言しましたが、代替生計手段の提供が不十分であったため、多くのケシ農家は貧困に苦しむこととなりました。現在でも、ワ州政府が直接関与せずとも、支配地域内でのメタンフェタミン製造に課税することで収益を上げていると指摘されています。

急速な経済発展と社会変化

麻薬取引によって得た巨額の収益は、ワ州に急速な経済発展をもたらしました。かつて貧しく辺鄙だったワ州の中心地パンカンは、数年でインフラが整備され、市場、商店、高層住宅、娯楽施設（映画館、カジノ、ナイトクラブなど）が立ち並ぶ近代的な都市に変貌しました。これは主に中国の建設会社によって行われ、街並みは中国の地方都市に似ています。交通網も整備され、主要な集落間を結ぶ道路は舗装されました。

経済発展の恩恵は社会サービスにも及びました。ビルマ共産党時代には限られていた学校や病院は劇的に増加し、教育施設は400校以上、生徒数は6万人を超え、医療施設も設備の整った病院を含め26箇所に増えました。学校教育ではワ語や中国語など現地語も取り入れられています。行政機構も整備され、財務、教育、保健、建設、外交など多岐にわたる部門を持つワ中央当局（WCA）が最高統治機関として機能しています。ただし、経済発展の裏で貧富の差が拡大しているという指摘もあります。

軍事力と対外関係

UWSAはミャンマー最大規模の少数民族武装勢力であり、その軍事力はしばしばミャンマー国軍をも凌駕すると言われます。その兵器の多くは中国から供給されており、携帯式防空ミサイルや大砲、装甲車両などの近代的な装備を有していると報告されています。これらの兵器は出所を隠すためラオス経由で輸送されることもあるとされます。また、UWSAはこれらの兵器を、連邦政治交渉協議委員会（FPNCC）などの同盟関係にある他の武装勢力に供給しています。AK-47のような小型武器の自前生産も試みていると伝えられています。

UWSAと中国は非常に密接な関係にあります。中国はミャンマー政府との関係を「政府と政府」、UWSAとの関係を「党対党」と区別し、双方と関係を維持することでミャンマーにおける影響力を確保していると分析されています。ジャーナリストのバートゥル・リントナーはUWSAへの支援を中国のミャンマー政府に対する「ムチ」と表現しています。中国はUWSAが主導するFPNCCにも深く関与しており、和平プロセスへの積極的な関与を求めています。また、中国の要請を受けて、ワ州内で活動するキリスト教徒への弾圧を行ったとも報じられています。2021年のクーデター以降、ミャンマー国内の内戦が激化する中でもUWSAは大きな軍事行動を控えていますが、中国から他の武装勢力への兵器供給を控えるよう要請があったとの情報もあります。

統治と地位

ワ州の統治機構はワ州連合党（UWSP）、ワ州連合軍（UWSA）、ワ政府から成り、中国共産党の組織構造を模倣していますが、幹部の重複が大きく、事実上三位一体となっています。最高統治機関はワ中央当局（WCA）です。司法制度も整備されており、基本法も制定されています。しかし、これらの組織は非民主的であり、ワ族のパオ家と中国系移民の魏家が支配者層を形成しています。

ワ州の領土は、2008年憲法で指定されたワ自治管区（北部の一部郡区）と、軍事的に支配する南部の飛び地に分かれており、南部の地位は曖昧です。UWSAは支配地域を「ワ州政府特別行政区」と宣言していますが、ミャンマー政府はこれを認めていません。UWSAは独立ではなく、2008年憲法を改正し、ワ自治管区を正式に「州」に昇格させることを求めています。しかし、その最大の目標は現状維持であり、政府との全面的な戦闘は回避する姿勢と見られています。近年、他の武装勢力から旧国軍支配地域を引き継ぎ、実効支配地域を広げた事例も報告されていますが、その後の統治において重税や人権侵害などが指摘されることもあります。

ビジネスと将来

麻薬ビジネスへの過度な依存から脱却するため、UWSAは1990年代以降、茶、ゴム、鉱業などへの経済多角化を進めてきました。多くの試みは頓挫したとされますが、錫鉱石の採掘は大きな成功を収め、ワ州はミャンマーの主要な錫産地となり、主に中国へ輸出されています。また、魏学剛が設立したホンパン・グループは建設、鉱業、農業など多角的な事業を展開し、UWSAの事実上の商業部門として機能しています。

パオ・ユーチャンが高齢化する中、ワ州では世代交代が進みつつあります。息子のパオ・アイカンや、UWSA創設者チャオ・ニーライの息子のチャオ・ヤンナライといった次世代リーダーが公の場に姿を見せる機会が増えています。一方で、一部の次世代幹部はオンライン詐欺への関与などで逮捕されるといった問題も起きています。

ワ州連合軍は、その複雑な歴史、麻薬経済からの転換、強固な軍事力、そして中国との独特な関係を通じて、ミャンマー国内で独自の道を歩み続けています。彼らの今後の動向は、ミャンマーの和平プロセスと地域の安定に大きな影響を与え続けると考えられます。

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