コーカン族

コーカン族

コーカン族は、ミャンマー連邦共和国の北部、特にシャン州に位置するコーカン地区を中心的な居住地とする民族集団です。その起源は、17世紀頃に中国の雲南省から移り住んだ漢民族（華人）の子孫とされており、現在も中国語の北方方言の一つである西南官話を話す人々が多くを占めます。

歴史

彼らの祖先は、明朝の崩壊に伴い雲南省から移動してきた人々であると考えられています。この地域では、明朝末期から楊氏を名乗る土司（世襲の地方首長）による支配が確立されました。1885年にイギリスが上ビルマを併合し、植民地支配下に置かれた後も、楊氏は引き続き地域の有力者として、事実上の支配権を維持しました。しかし、第二次世界大戦後のビルマ（現ミャンマー）独立により、国土が統一されると、長らく続いた土司による統治は終焉を迎えます。独立後の内戦などの混乱を経て、コーカン地域は後に「ミャンマー連邦共和国シャン州第一特区」として位置づけられることになりました。

ミャンマー国内の中国系住民のうち、1997年の推計では、近年雲南省から移り住んだ人々も含めたコーカン族は、全体の30%から40%を占めるとされています。

彼らの軍事組織は、ミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）として知られています。近年、ミャンマー政府軍との間でいくつかの大規模な衝突が発生しています。例えば、2009年8月には当時の軍事政権との間で「コーカン事件」と呼ばれる衝突が起こりました。また、2015年3月から5月にかけて、ミャンマー国軍がコーカン族居住地に対し空爆を行った際、中国との国境付近で誤爆により中国雲南省の民間人に死者が出ました。この一件はミャンマーと中国間の外交的な緊張を高める要因となりました。

文化と信仰

コーカン族には、独自の文化習慣が伝えられています。

山歌: 静かな野外で若い男女が互いに歌を掛け合い、求愛する伝統的な歌垣の文化です。その歌い方には戯曲にも似た特徴が見られます。1955年には、ホンアイ地区で山歌を歌っていた若者たちが、予期せぬ出来事に驚き、事故死するという悲しい出来事も記録されています。
打歌: 冠婚葬祭などの儀式や集まりの際に執り行われる伝統的な踊りです。三弦や短笛といった楽器の伴奏に合わせて民歌を歌いながら、人々が輪になって踊ります。

宗教面では、収穫を司る神「穡神（しょくしん）」への信仰が見られます。この穡神信仰には、タイ族によって信仰される戦の神、「色勐」や「勐神」に対する信仰との共通性が指摘されています。2017年にコーカン地域のある村で発生した兵士と村人の衝突について、村人たちは、穡壇（穡神の祭壇）に供物を捧げずに入村した兵士に対し、穡神が不満を抱き、争いが生じたのだと語ったという記録があります。また、中国本土の漢民族と同様に、大乗仏教や儒教、道教といった伝統的な中国の宗教も広く信仰されています。

他の華人との比較

コーカン族は、ミャンマー国内に住む他の中国系住民、特にヤンゴンなどの都市部に住む華人とは異なる集団として認識されています。また、サルウィン川を挟んだクカイ郡区のタモニエ地区に住むモンワン族も、起源は同じ雲南からの移民とされるものの、彼らはアクセントが異なる雲南方言を話し、コーカン族とは異なる独自のアイデンティティを認識しています。2016年3月、ミャンマー政府はモンワン族をモンワン・バマー（ビルマ族）と認定し、完全な市民権を与えました。これにより、公式に「タインインダー（先住民族）」の一つとされるコーカン族と、市民としての法的な位置づけに違いが生じています。

このように、コーカン族はミャンマーにおける中国系住民の一部でありながら、歴史、文化、そして法的な地位において、独自の道を歩んできた集団と言えます。

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