ヴァイオリン、ピアノと弦楽のための協奏曲 (メンデルスゾーン)

ヴァイオリン、ピアノと弦楽のための協奏曲 ニ短調 MWV. O4

概要

フェリックス・メンデルスゾーンが1823年に筆を執ったこのニ短調の作品（作品番号MWV. O4）は、ヴァイオリンとピアノという二つの独奏楽器に弦楽合奏が寄り添う、協奏曲の形態をとっています。メンデルスゾーンの数ある協奏曲の中で、2台のピアノのための作品を例外とすれば、唯一二つの異なる楽器を独奏としてフィーチャーしている点でユニークな存在です。

この協奏曲がどのような経緯で生まれたのか、その詳細は必ずしも明確ではありませんが、1823年5月6日に完成したことがわかっています。当初は、ベルリンにあったメンデルスゾーン家のサロンで行われるコンサートで演奏するために書かれたと考えられています。独奏パートは、彼の友人であったヴァイオリニストのエドゥアルト・リッツと、メンデルスゾーン自身、あるいはその姉ファニーがピアノ（またはクラヴィーア）を演奏することを想定して作曲されたと推測されています。

完成から間もない1823年5月25日、メンデルスゾーンは自宅でリッツと共に本作を演奏しました。この非公式な初演の後、彼はこの作品に管楽器とティンパニを加えた管弦楽版を制作しました。そして同年7月3日には、ベルリンのシャウシュピールハウス（現在のベルリン・コンツェルトハウス）にて公式な初演が行われています。

この作品の作曲には、メンデルスゾーンが1821年に短期間学んだヨハン・ネポムク・フンメルの手による同編成の協奏曲からの影響が指摘されています。加えて、彼が愛奏していたカール・マリア・フォン・ウェーバーのピアノ小協奏曲や、ヴィオッティ、ロード、ロドルフ・クレゼールといった名ヴァイオリニストたちから吸収したヴァイオリンの演奏技巧（ポルタート、スタッカート、ポルタメントなど）も、本作に反映されていると考えられています。

かつては演奏機会に恵まれず、広く知られる作品ではありませんでしたが、近年になっていくつかの録音が出版され、演奏動画なども見られるようになり、徐々に注目を集めつつあります。本作の自筆譜は、現在ベルリン国立図書館に大切に保管されています。

編成

この協奏曲は、以下の楽器編成で演奏されます。

独奏ヴァイオリン
独奏ピアノ
弦五部（ヴァイオリンI, II, ヴィオラ, チェロ, コントラバス）

メンデルスゾーン自身が後に作成した管弦楽版では、これに加えて以下の楽器が任意で追加されます。

フルート2
オーボエ2
クラリネット2
ファゴット2
ホルン2
トランペット2
ティンパニ

この管弦楽版は、1997年になってメンデルスゾーン全集の一部として、ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されました。そして、1999年2月27日には、ドイツのダルムシュタットにおいて、Latica Honda-Rosenberg（ヴァイオリン）とBeatrice Berthold（ピアノ）の独奏、クリスティアン・ルドルフ・リーデル指揮によるKammerphilharmonie Merckの演奏により、現代における世界初演が行われました。

構成

作品は全3楽章で構成されており、全曲を通しての演奏時間は約36分です。

1. 第1楽章：アレグロ
ニ短調、4分の4拍子。協奏ソナタ形式で書かれた楽章であり、全曲の中で最も規模が大きく、529小節にも及びます。全奏による提示部に続き、独奏楽器による提示部が現れます。メンデルスゾーン初期の弦楽交響曲を思わせるような対位法的な書法が随所に用いられています。展開部では、ピアノの伴奏に乗せてヴァイオリンがレチタティーヴォ風のパッセージを奏でます。楽章の終わりには、作曲者自身が記したカデンツァが置かれています。管弦楽版ではティンパニが加わることで、弦楽版とは異なる印象を与えます。

2. 第2楽章：アダージョ
イ長調、4分の3拍子。冒頭に提示される穏やかな主題が、三部形式的な構造の中で転調や展開を見せます。細やかな動きを見せるピアノに支えられながら、ヴァイオリンが抒情的な旋律を歌い上げます。

3. 第3楽章：アレグロ・モルト
ニ短調、4分の4拍子。この楽章はロンド形式、あるいはロンド・ソナタ形式とも解釈できますが、形式的にはより自由な発想に基づいて展開されます。活気に満ちた主題が繰り返される中に、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのコラールが引用されている点が特徴的です。

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