ヴァイオリンソナタ第1番 (オネゲル)

アルテュール・オネゲル：ヴァイオリンソナタ第1番 H.17

アルテュール・オネゲルが世に問うた最初のヴァイオリンソナタである第1番 H.17は、作曲家のごく初期の作品として、彼のその後の輝かしいキャリアの出発点を示す重要な位置を占めています。代表作となるオラトリオ『ダヴィデ王』や交響的運動『パシフィック231』といった作品群が生まれる数年前に書かれた本作は、弦楽四重奏曲第1番などと共に、オネゲルの創作活動の初期段階を知る上で不可欠な作品と言えるでしょう。

作曲は1916年に始まり、まず第1楽章が同年7月に、続いて第2楽章が1917年2月に完成しました。全3楽章が出揃ったのは1918年2月のことでした。初演は段階的に行われ、まず最初の2楽章のみが1918年1月19日、ユニヴェルシテ・アンテラリエ・ドゥ・パルテノンの演奏会で披露されました。この時のヴァイオリンは作曲者自身のアルテュール・オネゲル、ピアノは後に彼の妻となるアンドレ・ヴォラブールが務めています。そして、全曲が初めて演奏されたのは、その約2ヶ月後の1918年3月19日、パリのヴィユ・コロンビエ劇場でした。この時のヴァイオリンは高名なエレーヌ・ジュルダン＝モランジュ、ピアノは引き続きアンドレ・ヴォラブールでした。

本作には、セザール・フランクやガブリエル・フォーレといった先行世代のフランスの作曲家たちの影響が感じられます。しかし、単なる模倣に終わらず、当時の作品としてはより先進的な響きを持っています。特に注目されるのは、和声語法が比較的伝統に根ざしている一方で、楽章構成に非伝統的な試みが見られる点です。各楽章は明確な調性を保ちながらも、全体として緩－急－緩という珍しい3楽章構成を採用しています。演奏時間は概ね20分程度です。

同時代の作品である弦楽四重奏曲第1番が、オネゲルの後年の典型的な様式に比較的近いと言われるのに対し、このヴァイオリンソナタ第1番には、後に続く彼の交響曲群などの大規模作品における音楽的思考の萌芽が既に含まれていると解釈することも可能です。

楽曲構成

全3楽章からなり、非伝統的な「緩－急－緩」の構成をとります。

第1楽章 Andante sostenuto (嬰ハ短調)
3/4拍子。ピアノの絶えず揺れ動く音型の上で、ヴァイオリンがメランコリックな主要旋律を奏で始めます。音楽は徐々に高揚し、半音階的な進行と分厚い和声によって築かれる劇的なクライマックスへと発展していきます。この楽章で提示される二つの主要主題は、再現部において提示部とは異なる順序で再提示される手法が用いられており、これはオネゲルが後年の作品でも度々採用することになる特徴的な構成技法の一つです。

第2楽章 Presto - Tempo (tranquillo) - Tempo I (ヘ長調)
2/4拍子。対位法的な書式を特徴とする、躍動感あふれるスケルツォ楽章です。中間部ではヴァイオリンにミュートが装着され、主部とは対照的な穏やかで内省的な雰囲気となります。中間部が閉じると、主部の素材がフーガ風のテクスチャで再び現れ、楽章冒頭の活気を取り戻します。

第3楽章 Adagio - Allegro assai - Adagio (嬰ハ短調)
10/4拍子。ピアノのオスティナート（執拗に繰り返される音型）に乗って、暗く葬送を思わせる重々しい雰囲気で開始します。中間部分では、対位法的な絡み合いとリズミックな推進力を持つ音楽が現れます。音楽学者のピエール・メランはこの楽章に特別な独創性を見出しており、「弦楽四重奏曲第1番と同様に、緩やかな楽章は影響の水脈から抜け出ている」「ヴァイオリンが歌う憂鬱な旋律は、ピアノの神秘的な和音から切り離され、深い感情と激しい表現を含んでいる」と評しています。この楽章は、初期作品ながらオネゲルの個性が強く打ち出された部分と言えるでしょう。

ヴァイオリンソナタ第1番は、オネゲルの多様な創作活動の緒を拓く作品として、その後の展開を知る上でも非常に興味深い一作です。

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