ヴァイオリンソナタ第1番 (サン＝サーンス)

ヴァイオリンソナタ 第1番 ニ短調 作品75

カミーユ・サン＝サーンスが1885年に作曲した最初のヴァイオリンソナタである。作品番号は75が付されている。同年に初演された際には好評をもって迎えられ、楽譜も同じ年に出版された。この作品は、初演を務めたヴァイオリニスト、マルタン・マルシックに献呈されている。その構成は極めて密接に組み立てられており、演奏映えもするため、サン＝サーンスの数多くの室内楽曲の中でも、特に演奏機会の多い一曲となっている。サン＝サーンスのヴァイオリンソナタは第2番（作品102、1896年作曲）も存在するが、頻繁に演奏されるのはこの第1番の方である。

本作の翌年、1886年には有名な交響曲第3番「オルガン付き」が完成している。また、これに先立つ1875年にはピアノ協奏曲第4番が書かれている。これらの3作品は、楽曲全体の構成の仕方や、特定の旋律が形を変えて楽曲全体に繰り返し現れる循環形式を用いている点において、共通性が見られる。

また、このソナタはフランスの文豪マルセル・プルーストが深く愛した作品の一つとしても知られている。彼の代表作である長編小説『失われた時を求めて』に登場する架空の作曲家ヴァントゥイユのソナタは、この作品から着想を得て創作されたと言われている。

楽曲構成

本作は大きく二つの部分から構成されているが、それぞれがさらに二つの部分に細分化されており、全体としては合計四つの部分から成り立っている。これらの四つの部分はそれぞれ異なる性格を持つが、演奏は中断されることなく連続して行われる。この四つの部分は、伝統的なソナタにおける四つの楽章（第1楽章：ソナタ形式、第2楽章：緩徐楽章、第3楽章：スケルツォ、第4楽章：終楽章）にそれぞれ対応していると解釈できる。しかし、これらの部分をそれぞれ独立した楽章と見なすか、あるいは二つの大きな部分をそれぞれ楽章と見なすか、あるいは単に「第1部」「第2部」といった区分けで捉えるかについては、研究者や演奏家の間で様々な見解が存在する。本稿では、便宜上、これらの部分を連続した番号で示していく。全曲を通しての演奏時間は約22分である。

1. アレグロ・アジタート (Allegro agitato)：ニ短調、8分の6拍子。ソナタ形式で書かれている。暗く情熱的な性格を持つ第1主題は、ピアノとヴァイオリンが一体となって奏される疑似ユニゾンで提示される。一方、ヘ長調で「dolce espressivo（甘く表情豊かに）」と指示された第2主題は、ヴァイオリンによって歌われるように提示される。プルーストの小説に登場するヴァントゥイユのソナタは、この第2主題から強い霊感を受けて創造されたと言われている。再現部では第1主題は現れず、代わりに楽曲の終結部分において、提示部で現れた二つの主題が回想され、発展的に扱われる。この部分は切れ目なく次の部分へと移行する。

2. アダージョ (Adagio)：変ホ長調、4分の3拍子。三部形式による、緩徐楽章に相当する部分である。ここではヴァイオリンとピアノが互いに美しい旋律を歌い交わす。中間部はやや活動的な性格を持つ。主部の再現においては、ヴァイオリンによる繊細な音形が、ピアノの奏でる旋律に対置される形で現れる。

3. アレグレット・モデラート (Allegretto moderato)：ト短調、8分の3拍子。三部形式で、スケルツォ楽章に相当する部分である。ここで示されるスケルツォは、荒々しいというよりは、軽快でありながらも落ち着いた雰囲気を持っている。変ホ長調のトリオ部分では、スケルツォで用いられた音形が背景に聞こえる中、ヴァイオリンが優美な旋律を奏でる。その後、スケルツォとそれに続くトリオが簡潔に再現される。この部分も演奏は中断されずに次の部分へと続く。

4. アレグロ・モルト (Allegro molto)：ニ長調、4分の4拍子。ソナタ形式による終結部である。第1主題はヴァイオリンによって、まるで無限に続くかのような動き（無窮動的）で提示される。一方、第2主題はピアノによる急速なパッセージの上で、ヴァイオリンによって高らかに、そして華やかに歌われる。短い展開部と再現部を経て、この部分のクライマックスに向かうにつれて、第1部分のアレグロ・アジタートで提示された第2主題が再び姿を現す。この回帰した主題が、この部分の二つの主題と巧みに絡み合いながら、楽曲全体を輝かしく壮大な終結へと導いていく。

このヴァイオリンソナタ第1番は、サン＝サーンスの円熟した作曲技法と、ヴァイオリンとピアノという編成の特性を最大限に引き出した傑作として、現在でも多くの演奏家や聴衆に愛され続けている。

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