ヴァイオリンソナタ第1番 (プロコフィエフ)

セルゲイ・プロコフィエフ：ヴァイオリン・ソナタ第1番 ヘ短調 作品80

セルゲイ・プロコフィエフが手掛けたヴァイオリンとピアノのための作品の中でも、特に重要な位置を占めるのが《ヴァイオリン・ソナタ第1番 ヘ短調》作品80です。このソナタは、作曲家が創作活動を行った中でも特に困難な時期、すなわち第二次世界大戦中を含む1938年から1946年にかけて、足掛け8年という長い歳月をかけて生み出されました。その結果、作品番号は第1番と冠されていますが、先に完成していたフルート・ソナタをヴァイオリン用に編曲した《ヴァイオリン・ソナタ第2番 ニ長調》作品94bisよりも実際に完成したのは後のこととなりました。この特異な作曲・完成の経緯は、作品の持つ深遠で内省的な性格と無縁ではないでしょう。

このソナタは、プロコフィエフの作品の中でもとりわけ陰鬱な色調と強烈な情熱が同居する、非常に個性的な作品として知られています。その暗く沈鬱な雰囲気は、作曲された時代の厳しさや作曲家自身の内面の葛藤を反映しているとも解釈されます。

作品の公式な初演は、作曲が完了した年の1946年10月23日、モスクワ音楽院の小ホールで行われました。この歴史的な演奏を担ったのは、ヴァイオリン界の巨人ダヴィッド・オイストラフと、優れたピアニストであるレフ・オボーリンという、当時のソ連を代表する名手たちでした。彼らの手によって、この難曲が初めて聴衆の前に披露され、その後の評価を確立する上で重要な役割を果たしました。

このソナタは、以下の4つの楽章で構成されています。全曲を演奏するのに要する時間は約30分程度です。

1. Andante assai（アンダンテ・アッサイ）
2. Allegro brusco（アレグロ・ブルスコ）
3. Andante（アンダンテ）
4. Allegrissimo - Andante assai, come prima（アレグリッシモ - アンダンテ・アッサイ、コメ・プリマ）

作品全体を通して、ヴァイオリンとピアノは緊密に対話し、時に激しく衝突し、時に深く共鳴します。特に印象的なのは、第1楽章と第4楽章、すなわち作品の両端を締めくくる楽章のコーダ部分に現れる、ヴァイオリンによる急速な下降半音階のパッセージです。この音型について、作曲者自身はまるで「墓場を抜ける風」のようだと表現したと伝えられています。この強烈な比喩は、作品全体に漂う冷たく、どこか死の影を感じさせるような雰囲気を象徴しており、聴き手に忘れがたい印象を与えます。

《ヴァイオリン・ソナタ第1番》作品80は、プロコフィエフが到達した境地を示す傑作の一つであり、ヴァイオリン音楽のレパートリーの中でも異彩を放つ、演奏者にも聴衆にも深い感銘を与える作品です。

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