ヴァイオリンソナタ第20番 (モーツァルト)

ヴァイオリンソナタ第20番 ハ長調 K. 303

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲したヴァイオリンとピアノのためのソナタ、第20番 ハ長調 K. 303 (新モーツァルト全集では第13番)は、1778年2月にドイツのマンハイムで生まれました。この作品は、同年に作曲された全6曲からなる通称「パリ・ソナタ」と呼ばれる作品群の一つに数えられ、その中でも第18番 K. 301、第19番 K. 302と共に、マンハイム滞在中に書かれた3曲に含まれます。

概要

このソナタは、特に第1楽章において、当時のソナタ形式の常識にとらわれない大胆な形式上の試みがなされている点で注目されます。単なる伝統的な様式を踏襲するのではなく、実験的な精神に満ちた異色作として、モーツァルトの創造性の一端を示す作品と言えるでしょう。第1楽章に見られる斬新な構成や、内包された不安定な情緒は、聴き手に強い印象を与えます。

構成

全体は2つの楽章で構成されており、演奏時間は約10分程度です。

1. 第1楽章：アダージョ - モルト・アレグロ
- 形式：ソナタ形式
- 調性：ハ長調
- 拍子：2分の2拍子

この楽章は、遅い速度による序奏的な部分（アダージョ）と、速い主部（モルト・アレグロ）が交互に繰り返されるという、極めて特徴的な構成を持っています。具体的には、「アダージョ → モルト・アレグロ（提示部）→ アダージョ → モルト・アレグロ（展開部〜再現部）」のような構造をとっています。主部であるモルト・アレグロはソナタ形式に基づきますが、序奏と主部の交代という枠組みの中で展開されます。提示部冒頭に現れる第1主題は、ハ長調の中にイ短調、イ長調、ト長調といった異なる調性感を内包しており、その調性構造の特異性が際立ちます。また、主部のクライマックスである再現部の開始直前には、再びアダージョの部分が挿入されるなど、従来のソナタ形式の枠を超えた自由な発想が見られます。こうした形式上の大胆さに加え、音楽に宿る独自の、時に不安定とも感じられる情緒が、この楽章をモーツァルトのヴァイオリンソナタの中でも特にユニークで創造的なものにしています。

2. 第2楽章：テンポ・ディ・メヌエット
- 形式：ソナタ形式
- 調性：ハ長調
- 拍子：4分の3拍子

終楽章は、メヌエット風の優雅なテンポで奏されるソナタ形式の楽章です。この楽章のソナタ形式は、規模が比較的縮小されており、簡潔にまとめられています。展開部では、劇的な展開や緊張感の高まりといった「激性」を意図的に避け、穏やかで自然な流れを保っています。また、再現部が伝統的なソナタ形式のように第1主題から始まるのではなく、第2主題から開始されるという点も特徴的です。これにより、楽章全体の軽やかで均整の取れた雰囲気が強調されています。

ヴァイオリンソナタ第20番 K. 303は、第1楽章の革新的な構造と情緒、そして第2楽章の洗練された簡潔さが見事に融合した作品であり、モーツァルトの円熟期に向けた過渡期における重要な成果の一つと言えるでしょう。

もう一度検索