ヴァイオリン協奏曲第1番 (パガニーニ)

ニコロ・パガニーニの「ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調 作品6」は、彼のヴァイオリン協奏曲の中でも特に知られ、彼自身が最初に出版した作品として歴史に名を刻んでいます。1817年から1818年頃に書かれたこの協奏曲は、ヴァイオリンの可能性を極限まで追求したパガニーニの個性が色濃く反映された傑作です。

この作品は1819年3月29日に初演され、その後1821年7月30日にも再演されました。楽譜は1820年に世に出されています。パガニーニはこれ以前にもヴァイオリン協奏曲を作曲していますが（例えば1815年頃のホ短調の作品）、それらの多くはヴァイオリンパートのみが現存し、管弦楽部分が後世に補筆されて演奏されるに留まっています。この第1番が出版されたことで、彼の名を広く知らしめる一助となりました。

この協奏曲には、作曲者の巧妙な仕掛けが隠されています。本来の管弦楽パートは変ホ長調で書かれていましたが、独奏ヴァイオリンパートはニ長調で記されていました。これは、パガニーニが独奏ヴァイオリンの弦を通常より半音高く調弦する「スコルダトゥーラ」という特殊な技法を用いたためです（標準のG-D-A-E線ではなく、As-Es-B-F線に相当する音に調弦）。この調弦法を用いることで、楽器がより輝かしい音色を響かせることができ、また、管楽器奏者にとってはフラット系の変ホ長調の方がナチュラルやシャープが多いニ長調よりも演奏しやすいという利点がありました。しかし、パガニーニが通常のヴァイオリンの調弦で変ホ長調を演奏するのがニ長調よりはるかに難しいことを逆手にとり、あえて変ホ長調の楽譜を出版することで、自らの超絶技巧をさらに誇張し、聴衆を驚かせようとしたのではないかという説も語られています。

現代においてはこの作品を演奏する際、独奏ヴァイオリンのスコルダトゥーラは行わず、管弦楽パートも半音下げて全体をニ長調として演奏するのが一般的です。ただし、近年ではレスリー・ハワードが自筆譜を基にした変ホ長調の原典版を出版しており、一部の演奏家（例えば、1991年のパガニーニ国際コンクール優勝者マッシモ・クアルタ）はこの版を選んで録音を行っています。

この協奏曲は、ヴァイオリンの演奏技術において極めて高い要求を課す難曲として知られています。二重フラジオレット、迅速なスピカート、高速な3度の重音（ダブルストッピング）など、困難な技法が惜しみなく盛り込まれており、数多くの名ヴァイオリニストたちがこの作品に挑んできました。管弦楽パートは、独奏ヴァイオリンを最大限に引き立てるために、簡潔でありながらも効果的で劇的な響きを持つように書かれています。この劇的な書法には、当時のロッシーニをはじめとするイタリアオペラからの影響が指摘されています。

楽譜の版についても歴史的な変遷があります。第二次世界大戦前には、ドイツのヴァイオリニスト、アウグスト・ウィルヘルミが大幅なカットを施した版が広く演奏されていました。現在では原典版に基づいた演奏が主流ですが、フリッツ・クライスラーが管弦楽をより豊かに改訂した版も、時折演奏される機会があります。

全3楽章から構成され、演奏時間は約35分です。

• - 第1楽章 Allegro maestoso – Tempo giusto

ニ長調（原調変ホ長調）、4分の4拍子。変則的な協奏的ソナタ形式で書かれています。ロッシーニのオペラ序曲を思わせる華やかな開始に続き、二つの主題が提示されます。超絶技巧を駆使した独奏パート、展開部を経て、再現部では第2主題のみが回帰します。クライマックスでは、ヴァイオリンの左手ピッツィカートが印象的に用いられます。

• - 第2楽章 Adagio espressivo

ロ短調（原調ハ短調）、4分の4拍子。ドラマティックな管弦楽の導入に続いて、独奏ヴァイオリンが弦楽器の伴奏に乗って、オペラのアリアのような情感豊かな旋律を歌い上げます。

• - 第3楽章 Rondo Allegro spiritoso – Un poco più presto

ニ長調（原調変ホ長調）、4分の2拍子。第2楽章から切れ目なく演奏されるロンド形式の楽章です。スタッカートやピッツィカートといった技巧が効果的に使われ、輝かしく曲を締めくくります。フランツ・リストが1838年に作曲した『パガニーニによる超絶技巧練習曲』の第3番では、この楽章の主要主題が変イ長調に移調されて引用されましたが、後に改訂された最終稿（「ラ・カンパネラ」として知られる）からは削除されています。

この作品は、パガニーニの伝説的なヴァイオリン技巧と、聴衆を惹きつけるドラマティックな構成が融合した、ヴァイオリン協奏曲の重要なレパートリーの一つとして、今もなお世界中のコンサートホールで演奏され続けています。

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