ヴァイナモイネン (海防戦艦)

フィンランド海軍海防戦艦「ヴァイナモイネン」：カレワラからレニングラードへ

「ヴァイナモイネン」は、フィンランド海軍が保有した海防戦艦です。その艦名は、フィンランド叙事詩『カレワラ』の主人公に由来しています。本艦は、イルマリネン級（もしくはヴァイナモイネン級）の2番艦として、フィンランドのクリクトン・ヴルカン社で建造されました。1929年10月15日起工、1930年12月20日進水、そして1932年9月29日にフィンランド海軍に引き渡され、1933年12月31日には沿岸艦隊に配備されました。

竣工後、「ヴァイナモイネン」はいくつかの海外訪問を行いました。1935年にはキール（ドイツ）、1937年にはイギリスのジョージ6世戴冠記念観艦式に参加しています。後者に関しては、航洋性に劣る本艦がスウェーデン海防戦艦「ドロットニング・ヴィクトリア」に曳航されたという逸話がありますが、これは事実ではないようです。帰路はコペンハーゲンに寄港しています。1939年には姉妹艦「イルマリネン」と共にストックホルムを訪問しています。

1939年11月30日、ソ連との冬戦争が勃発します。「ヴァイナモイネン」と「イルマリネン」は当初、オーランド諸島の防衛に当たりましたが、海氷の発生に伴いトゥルクに移って防空任務に転じました。戦争中は幾度か空襲を受け、「イルマリネン」は被害を受けることになります。冬戦争は1940年3月に終結しました。

1941年6月、継続戦争が始まりました。「ヴァイナモイネン」と「イルマリネン」は、ハンコ半島に対する艦砲射撃を7月4日、12日、14日、そして9月2日に行っています。同年9月には、「ヴァイナモイネン」と「イルマリネン」はノルトヴィント作戦に参加しました。これは、ドイツ軍によるヒーウマー島、サーレマー島上陸作戦に対する欺瞞作戦で、フィンランド艦隊は上陸地点とは反対方向へ敵の注意を誘導する役割を担っていました。この作戦中に、残念ながら「イルマリネン」は沈没してしまいます。「ヴァイナモイネン」は1941年11月15日には再びハンコ半島を砲撃しています。

1942年から1943年にかけては、フィンランド湾において対潜作戦支援や機雷原防衛に従事しました。1944年7月12日にはコトカで爆撃を受けましたが、被弾は免れました。しかしその4日後、ソ連軍による132機の大規模空襲が発生し、ドイツの浮砲台「ニオベ」が「ヴァイナモイネン」と誤認され撃沈されるという悲劇が起こりました。

戦争終結後、「ヴァイナモイネン」は賠償としてソ連に売却されました。売却額は2億6500万マルッカにのぼります。1947年3月1日、ソ連に引き渡され、「ヴィボルグ」と改名されました。ソ連海軍バルチック艦隊に配属された「ヴィボルグ」は、ソ連水兵からは「ワーニャ」という愛称で呼ばれていました。1950年代には近代化改修が行われましたが、老朽化が進んだため1958年に廃棄が決定されました。フィンランドとの返還交渉も行われましたが、結局1966年頃にはレニングラードの工廠で解体され、その金属は約2700トンに達しました。

艦のデータ

全長：93.00m、水線長：90.00m、最大幅：7.59m。排水量は軽荷で3531トン、常備で3808トン、満載で4028トン。吃水は軽荷で4.071m、常備で4.332m、満載で4.537mでした。主砲はボフォース45口径25.4cm連装砲2基。仰角40度での榴弾射程は31172mに達しました。副砲は当初ボフォース50口径10.5cm連装砲4基を予定していましたが、供給遅延のため、一時的にオブホフ60口径10.2cm単装砲4基を搭載していました。また、40mm砲の搭載状況には不明な点があり、写真記録からは3ポンド砲らしきものが確認できます。1941年6月にはボフォース60口径40mm機関砲に換装され、マドセン60口径20mm機銃も追加搭載されました。推進方式はディーゼル・エレクトリック推進（ワード・レオナード方式）、主機はクルップ・ゲルマニア社製ディーゼル機関4基、速力は公試で14.35～15.2ノットでした。装甲は、主砲防楯、バーベット、司令塔などに硬化処理されたニッケル鋼が使用されていました。

参考文献

橋本若路『海防戦艦　設計・建造・運用　1872～1938』イカロス出版、2022年
「Conway All The World's Fightingships 1922-1946」（Conway）
* 広田厚司『ドイツ海軍入門 : 大英帝国に対抗する異色の戦力』光人社〈光人社NF文庫〉

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