ヴァルター・ハルシュタイン

ヴァルター・ハルシュタイン：欧州統合の立役者

ヴァルター・ハルシュタイン（1901年11月17日 - 1982年3月29日）は、激動の20世紀を駆け抜けたドイツの法学者であり政治家です。第三帝国、ドイツ連邦共和国（西ドイツ）という時代の変遷の中で、彼は法学研究者として、そして政治家として、その才能を発揮しました。特に、欧州経済共同体（EEC）の初代欧州委員会委員長としての功績は大きく、彼は「欧州連合の父」の一人として、その名を知られています。

学究から政治の世界へ

マインツで生まれたハルシュタインは、ベルリン大学などで法学を学び、1925年に博士号を取得。その後、ベルリン大学助手、カイザー・ヴィルヘルム研究所の研究員、ロストック大学教授、フランクフルト大学教授と、研究者としてのキャリアを積み重ねました。この間、ナチス関連の職能団体にも所属していましたが、第二次世界大戦中は国防軍の予備役中尉として従軍。1944年にアメリカ軍の捕虜となり、捕虜収容所では「収容所大学」を創設し、捕虜たちに法学を講義するというエピソードも残っています。

戦後、フランクフルト大学の学監に選出されたハルシュタインは、1948年にはジョージタウン大学の客員教授として国際関係論を講義。その後、西ドイツのユネスコ加盟交渉、欧州石炭鉄鋼共同体加盟交渉の西ドイツ政府首席代表を務めるなど、政治の世界へ足を踏み入れ始めます。

ハルシュタイン原則と外交手腕

1950年、ハルシュタインはアデナウアー首相に指名され、連邦首相府事務次官に就任。シューマン・プランの受け入れ交渉に尽力します。翌年には外務次官に転じ、アデナウアー首相（当時外相も兼任）を支え、戦後初の独仏首脳会談にも同席しました。1955年には、いわゆる「ハルシュタイン原則」を発表。これは、東ドイツを国家承認した国との国交を断絶するという西ドイツの外交方針を定めたもので、東西ドイツ問題における西ドイツの立場を明確にするものでした。

しかし、当時の西ドイツは、イスラエルとの和解や欧州防衛共同体加盟交渉など、多くの外交課題を抱えており、実務を担当するハルシュタインは批判に晒されることもありました。また、新外相ブレンターノとの確執も表面化し、ハルシュタインの影響力は徐々に低下していきました。

EEC委員長として欧州統合に貢献

1958年、ハルシュタインは欧州経済共同体（EEC）の初代委員長に選出されます。彼は、EECの共同市場創設や自由貿易を目指した「ハルシュタイン計画」を発表するなど、ヨーロッパ統合の推進に尽力しました。しかし、フランスのド・ゴール大統領が、国家主権を侵害する超国家主義的な決定に反対し、「空席戦術」で抵抗したため、ハルシュタインは1967年にEEC委員長を辞任することとなりました。

その後

EEC委員長辞任後、ハルシュタインは西ドイツ政界に復帰し、1969年から1972年までドイツキリスト教民主同盟（CDU）所属の連邦議会議員として活動。1968年から1974年には「国際ヨーロッパ運動」の議長を務めました。1982年、80歳でシュトゥットガルトで死去。

ハルシュタインは、その功績を称えられ、数々の名誉博士号やカール大帝賞を受賞。彼の名を冠した「ヴァルター・ハルシュタイン欧州憲法研究所」が設立されるなど、その遺産は今も息づいています。

ヴァルター・ハルシュタインは、激動の時代を生き抜き、ヨーロッパの未来を切り開いた偉大な政治家であり、法学者でした。

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