ヴァルター・ベリー

ヴァルター・ベリー（Walter Berry）は、1929年4月8日に生まれ、2000年10月27日にこの世を去ったオーストリアを代表するオペラ歌手（バス・バリトン）です。

彼の音楽キャリアは、ウィーン音楽大学でガロスに師事することから始まりました。学業を終えた後、1949年にはウィーン国立歌劇場のメンバーに迎え入れられます。公式なオペラデビューは1952年、同歌劇場でのヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲のオペラ『魔笛』における陽気な鳥刺しパパゲーノ役でした。この成功を受けて、彼は翌1953年からはザルツブルク音楽祭の舞台にも立つようになり、主要な出演者の一人としての地位を確立していきます。

ヴァルター・ベリーは生涯を通じてウィーン国立歌劇場に深く関わり、実に1228回を超える公演に出演しました。また、40作品以上の新作や新演出の初演に関わるなど、同歌劇場の歴史において重要な役割を果たしました。彼の名声はオーストリア国内に留まらず、1955年にはアルバン・ベルクの革新的なオペラ『ヴォツェック』のタイトルロールを演じ、その圧倒的な表現力で国際的な注目を集めます。1958年には北米でのデビューを果たし、1960年代以降はベルリン、ミュンヘン、ニューヨークといった世界の主要な歌劇場でも精力的に活動を展開しました。

ウィーン国立歌劇場における長年の功績と貢献が認められ、1963年には権威ある宮廷歌手の称号を授与されました。同年、彼はベルリン・ドイツ・オペラの来日公演に帯同し、新装オープンした日生劇場のこけら落としシリーズとして上演されたモーツァルトの『フィガロの結婚』に出演し、フィガロ役を演じて日本のオペラファンにも強い印象を残しました。また、1981年にはウィーン国立歌劇場の名誉団員に選ばれています。歌手としての活動の傍ら、1989年からはウィーン国立音楽大学で後進の指導にあたり、教育者としてもその才能を発揮しました。

私生活では、1957年に著名なメゾソプラノ歌手クリスタ・ルートヴィヒと結婚しましたが、二人の関係は1970年に終焉を迎えました。ヴァルター・ベリーは2000年10月27日、71歳でウィーン市内で心筋梗塞のため亡くなりました。

ヴァルター・ベリーは、その豊かな声量と卓越した表現力を活かし、オペラを中心に目覚ましい活躍を見せました。彼のレパートリーは非常に幅広く、100を超えるオペラ役を歌いこなしたと言われています。特にモーツァルト作品には造詣が深く、ウィーン古典派のスタイルを体現する歌唱は高く評価されました。また、現代オペラにも積極的に取り組み、ベルクの『ヴォツェック』のような難役に挑むなど、その挑戦的な姿勢も特筆されます。オペラ以外にも、リートや宗教曲の録音も数多く残しており、晩年にはハインツ・ツェドニックと共にウィーンの伝統的な歌を歌った録音も発表しています。彼の主なオペラ・レパートリーとしては、以下のような役が挙げられます。

モーツァルト：『フィガロの結婚』より フィガロ、アルマヴィーヴァ伯爵
モーツァルト：『ドン・ジョヴァンニ』より マゼット、レポレロ
モーツァルト：『魔笛』より パパゲーノ
アルバン・ベルク：『ヴォツェック』より ヴォツェック
リヒャルト・シュトラウス：『影のない女』より バラク
リヒャルト・シュトラウス：『ナクソス島のアリアドネ』より 音楽教師

ヴァルター・ベリーは、その類まれなる才能と献身により、20世紀後半のオペラ界において確固たる地位を築いた偉大な歌手として、今なお多くの音楽ファンに記憶されています。

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