影のない女

リヒャルト・シュトラウスのオペラ『影のない女』

『影のない女』（Die Frau ohne Schatten, 作品65）は、リヒャルト・シュトラウスが作曲し、フーゴ・フォン・ホーフマンスタールが台本を手掛けたオペラです。このオペラは、作曲者自身によって旋律が用いられたオーケストラ曲、交響的幻想曲《影のない女》としても知られています。

概要

全3幕から構成され、カットなしの場合、上演時間は約3時間20分にも及ぶ大作です。一般的にはメルヘンオペラに分類されますが、その内容は多岐にわたり、解釈が難しいことで知られています。特に近代オペラの中では、その難解さにおいて際立った存在です。

物語は、東洋の島国を統治する皇帝と、霊界の王カイコバートの娘である皇后を中心に展開します。皇后は人間ではないため影を持たず、子供を産むことができません。もし皇后が子を持てない場合、皇帝は石に変えられてしまうという呪いがかけられています。皇后は夫を救うため、貧しい染物屋の妻から影を奪おうとしますが、最終的には他者を犠牲にすることに躊躇します。この利他的な行動が奇跡を引き起こし、皇帝は石化から解放され、皇后もまた影を得て人間となることができます。この物語は、愛と自己犠牲がもたらす救済の可能性を示唆しています。物語の詳細は、ホーフマンスタール自身が執筆した「劇のあらすじ」に詳しく記されています。

音楽評論家の吉田秀和は、この作品について「誰が聴いても最初は戸惑うだろう」と述べています。しかし、視覚的な要素や暗示的な表現に注意を払いながらも、音楽そのものに耳を傾けることで、このオペラの魅力に気づくことができると指摘しています。そして、オペラならではの楽しみを存分に味わえる作品であると評価しています。

作曲の経緯

このオペラは、『エレクトラ』、『町人貴族』、『ナクソス島のアリアドネ』、『ばらの騎士』に続く、シュトラウスとホーフマンスタールの共同制作による作品です。作曲は1914年から1917年にかけて行われました。当初、ホーフマンスタールは喜劇的な要素を盛り込むことを考えていましたが、シュトラウスの反対により、それは実現しませんでした。

オペラの構想は、モーツァルトの『魔笛』に影響を受けたとされています。物語の舞台は魔法の世界であり、霊界、人間界、そして地下の暗闇といった異なる世界が交錯します。音楽面では、フルオーケストラによる壮大な響きから、室内楽のような繊細なアンサンブルまで、シュトラウスの多様な表現技法が駆使されています。

主要人物と楽器編成

主要な登場人物は以下の通りです。

皇帝（テノール）
皇后（ソプラノ）
染物師バラック（バリトン）
染物師の妻（ソプラノ）
乳母（メゾ・ソプラノ）
伝令使（バリトン）
敷居の護衛者（ソプラノ）
若い男の幻影（テノール）
天上界からの声（アルト）
鷹（の声）（ソプラノ）

楽器編成は大規模で、以下の楽器が使用されます。

木管楽器: フルート4、オーボエ3、クラリネット5、ファゴット4
金管楽器: ホルン8、トランペット6、トロンボーン4、チューバ
[打楽器]]: ティンパニ]、[[打楽器奏者4
その他: チェレスタ2、ハープ2
弦楽器: 第1ヴァイオリン16、第2ヴァイオリン16、ヴィオラ12、チェロ12、コントラバス8
舞台裏: フルート2、オーボエ、クラリネット2、ファゴット、ホルン、トランペット6、トロンボーン6、ウィンドマシーン、サンダーマシーン、オルガン、タムタム4

あらすじ

物語は3幕構成で、霊界と人間界を舞台に、皇帝と皇后、そして染物師バラックとその妻を中心に展開します。影を持たない皇后が、夫である皇帝を救うために、人間の女性から影を奪おうとする過程で、愛と自己犠牲の重要性に気づき、最終的には自らの行動によって奇跡を呼び起こします。各幕は複数の場面に分かれており、それぞれの場面で登場人物たちの心情や葛藤が描かれます。

初演と評価

『影のない女』は、ドイツ・オペラの重要な作品として、記念すべき機会に上演されることが多いです。初演は1919年10月10日にウィーン国立歌劇場で行われ、その後も主要な歌劇場で上演されています。

日本では、1984年にハンブルク国立歌劇場の客演によって初演され、1992年にはヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮、市川猿之助演出によるオリエンタルな舞台が話題となりました。この作品は、その難解さから上演機会が少ないものの、近年では再評価の動きも見られます。

慣習的なカット

上演時間が長いため、カットされることがありますが、近年ではノーカットでの上演も増えています。完全全曲録音は、サヴァリッシュ&バイエルン放送交響楽団、ショルティ&ウィーン・フィルの2点が存在します。

日本語訳

高橋英夫による小説版の翻訳が存在します。

外部リンク

影のない女作品65の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト) (PDF形式で無料入手可能)

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