ヴァルダス・アダムクス

ヴァルダス・アダムクス：リトアニアの激動の歴史を体現した政治家

ヴァルダス・アダムクス（Valdas Adamkus、1926年11月3日 - ）は、リトアニアの政治家であり、リトアニア大統領を二度務めました。彼の人生は、リトアニアの激動の20世紀の歴史と深く結びついています。幼少期からアメリカでの生活、そして大統領として祖国に貢献するまで、彼の波瀾万丈な生涯を辿ります。

生い立ちとアメリカ移住まで

1926年、アダムクスはリトアニアのカウナスで生まれました。父は軍人で、リトアニア独立戦争にも参加した愛国者でした。幼少期は、義父と母、そして弟と共に慎ましくも温かい家庭で育ちました。学校ではリーダーシップを発揮し、周囲からの信頼も厚かったようです。

しかし、彼の人生は第二次世界大戦の勃発により大きく変わります。リトアニアがソ連に併合され、その後ナチス・ドイツに占領されるという混乱の中、彼は地下抵抗組織に身を投じました。同志と共に反ソ連の新聞を発行するなど、危険な活動に従事しました。ゲシュタポの捜査を逃れドイツへ亡命し、ミュンヘン大学で学びました。

戦後、アダムクスは家族と共にアメリカ合衆国へ移住します。そこで彼は、新たな人生をスタートさせました。自動車工場や製図工として働きながら、イリノイ工科大学で水力工学を学びました。1960年に大学を卒業。アメリカ社会に溶け込みながらも、彼は故郷リトアニアへの想いを忘れることはありませんでした。

アメリカでの活動と環境保護庁での活躍

アメリカで生活するリトアニア人のために、彼は様々な活動を行いました。ソ連によってシベリアに連行されたリトアニア人の問題についてアメリカ政府に働きかけたり、リトアニアにおけるソ連政府の活動に対する懸念を表明したりしました。これらの活動を通じて、彼はリトアニア人コミュニティの中で重要な存在となっていきます。在米リトアニア人政治団体「サンタラ＝シュヴィエサ連盟」の会長にも就任しました。

1970年代に入ると、アダムクスは環境問題の専門家としてアメリカ環境保護庁 (EPA) に勤務し始めました。五大湖地域副長官、五大湖地域長官を歴任し、イリノイ州、インディアナ州、ミシガン州など6つの州における公害問題に取り組みました。その功績が認められ、ロナルド・レーガン大統領から連邦公務員に与えられる最高位の賞を受賞しました。

また、1972年には米国代表としてモスクワで開かれた環境会議に出席し、約30年ぶりにリトアニアへの帰国を果たしました。ソ連がペレストロイカを実施してからは、より頻繁に母国を訪れることができるようになりました。

リトアニア帰国と大統領就任

16年間EPAの地域長官を務めた後、アダムクスは1997年に退職し、リトアニアへ帰国しました。そして1998年、彼は大統領選挙への立候補を決意します。アメリカでの長い生活から、当初は立候補資格を巡って法廷闘争も経験しましたが、最終的には立候補が認められました。アメリカでの経歴や政府との繋がりが評価され、決選投票の末、見事当選を果たしました。

大統領として、アダムクスはリトアニアのNATO及びEU加盟に尽力しました。彼のリーダーシップの下、リトアニアは国際社会への統合を進め、民主主義国家としての地位を確立しました。

2003年の大統領選挙で敗北し、一時政界を離れましたが、2004年にロランダス・パクサス大統領が弾劾により辞任すると、再び大統領選挙に立候補し、再当選を果たしました。2009年に任期満了で退任するまで、彼は祖国のために献身的に職務を遂行しました。

人柄と趣味

アダムクスは、その誠実で温厚な人柄で多くの人々に慕われました。松浦晃一郎ユネスコ事務局長も彼の人柄を高く評価し、2003年にはユネスコ親善大使に任命されました。水泳、ジョギング、テニス、スポーツ観戦、クラシック音楽鑑賞、読書など、多趣味な人物でもありました。

ヴァルダス・アダムクスの生涯は、激動の時代を生き抜き、祖国の独立と発展に貢献した一人の政治家の物語です。彼の愛国心、リーダーシップ、そして誠実な人柄は、多くの人々に感銘を与え、リトアニアの歴史に深く刻まれています。

もう一度検索