ヴァルド派

ヴァルド派:迫害の歴史と信仰の継承



ヴァルド派は、12世紀の中世ヨーロッパにおいて、ローマ・カトリック教会とは異なる独自の信仰を確立したキリスト教教派です。フランス語で「Églises vaudoises」、英語で「Waldensianism」と呼ばれ、カタリ派と同様にカトリック教会から異端とみなされ、厳しい迫害を受けました。しかし、その信仰は幾多の困難を乗り越え、現代まで受け継がれています。

ヴァルド派の起源と特徴



ヴァルド派の創始者であるピエール・ヴァルドは、リヨンの裕福な商人でした。ある日、吟遊詩人の歌う聖アレクシス伝に触れ、世俗の富の無意味さを悟り、全財産を捨てて巡回説教者となります。彼は貧困を旨とした生活を追求し、信徒による説教や聖書ラテン語からの翻訳を重視しました。この運動は、初期キリスト教の清貧な生活様式への回帰を目指したものであり、彼ら自身を「リヨンの貧者」あるいは「ロンバルディアの貧者」と称しました。

ヴァルドの説教は多くの共感を呼び、次第に信徒が増えていきます。アッシジのフランチェスコの思想とも共通点が見られる、その精神は、教会の公式な許可を得るべく努力しますが、リヨン大司教に拒否され、教皇からも異端宣告を受けます。その理由は、教会権威の軽視、聖書以外の言語への翻訳、そして教会上層部が危険視した「自由に説教を行うこと」でした。

迫害と地下活動



異端宣告後も、ヴァルド派は南フランスや北イタリアで活動を続けました。街路や広場、時には教会においても、公然と説教を行い、カタリ派に対しても正統信仰を主張しました。教会は信徒の復帰を図りますが、多くは自由な説教を続けます。しかし、1230年代には異端審問が始まり、ヴァルド派は地下活動へと移行。巡回説教者は「ひげ(barba)」と呼ばれ、男女を問わず秘密裏に活動を続けました。

迫害を逃れるため、彼らはアルプス山脈を越え、オーストリアドイツボヘミアなどに広がっていきました。イタリア派(ロンバルディアの貧者)は表向きはカトリックの信者のままで、裏では福音書に基づいた道徳を守ることの重要性を説きました。彼らは教会の腐敗を批判し、煉獄や聖人崇拝といった聖書にない教義も否定しました。一方、フランス派(リヨンの貧者)は教会との連携を保ちつつ、形式的な儀式を排除しました。アルビジョア十字軍ではカタリ派と共に多くの犠牲者が出ますが、生き残った者たちはアルプスの山中に潜伏しました。1300年頃までにイタリアとフランスでは壊滅状態になりましたが、アルプス北部では活動が続けられました。

宗教改革とその後



宗教改革が始まると、ヴァルド派はスイスの改革派教会と合流しました。しかし、アルプスの谷間ではその後も迫害が続き、多くの犠牲者を出しました。1655年にはサヴォイア家とフランス軍による大虐殺が起き、イングランドのクロムウェルが外交的圧力をかけることで滅亡を免れました。ジョン・ミルトンは『ピエモンテの虐殺』でこの悲劇を綴り、ヴァルド派をプロテスタントの先駆者として称えました。1685年のナント勅令廃止後も迫害が続き、ゲリラ戦を経て、多くがスイスなどに逃れました。しかし、イングランド名誉革命後、イギリスとオランダの支援を受け、1689年に「栄光の帰還」を果たします。

その後もプロテスタント諸国からの支援を受けながら復興し、サヴォイア公の忠実な臣民として戦いました。イギリスやオランダの支援は18世紀後半まで続きましたが、フランス革命ナポレオン戦争によって一時中断。ナポレオンは宗教的差別を撤廃しましたが、ナポレオン失脚後は再び抑圧されました。1848年にカトリックと同等の市民権が与えられ、その後もプロテスタント諸国との交流は盛んに行われました。2015年には教皇フランシスコがヴァルド派への迫害について謝罪しました。

現在



現在、ヴァルド派は北イタリアを中心に約2万人の信徒を抱えています。アメリカ合衆国などでは、メソジストなど他のプロテスタント教会と合流したグループも存在します。プロテスタント諸国からの支援や交流は現在も活発に行われ、ヴァルド派の信仰は現代社会においても生き続けています。

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