ヴィオラソナタ (メンデルスゾーン)

フェリックス・メンデルスゾーンが1824年に作曲したヴィオラソナタ ハ短調 MWV Q 14は、彼の若き才能を示す重要な作品です。このソナタは、彼がまだ15歳の時に書かれ、自筆譜には「1824年2月14日」と日付が明記されています。

当時のメンデルスゾーンは、既に12曲に及ぶ弦楽のためのシンフォニアや、2台ピアノのための協奏曲（ホ長調 MWV O 5、変イ長調 MWV O 6）といった本格的な作品を多数手掛けており、同年中には後に彼の作品番号付き交響曲第1番となるハ短調の交響曲（作品11）も完成させていました。このヴィオラソナタも、そうした充実した創作活動の中で生まれたものです。

しかし、なぜかこのヴィオラソナタはメンデルスゾーンの生前には出版されることがなく、公式な作品番号も与えられませんでした。楽譜が日の目を見たのは、作曲者の死後100年以上が経過した非常に遅い時期、1966年になってからのことです。現在では、International Music Companyやブライトコプフ・ウント・ヘルテルといった出版社から楽譜が入手可能となっています。

当時の室内楽において、ヴィオラソナタというジャンルは非常に珍しい存在でした。古典派からロマン派にかけて、アンリ・ヴュータンのような一部の作曲家を除き、ヴィオラのためのソナタ作品は少なく、主要なレパートリーとは言えませんでした。そのため、メンデルスゾーンの本作は、この時代の数少ないヴィオラソナタとして貴重な存在です。しかし、長らく出版されなかったこともあり、現在でも一般の知名度は高くありません。とはいえ、ヴィオラ奏者の間では、ロマン派初期の重要な作品としてその価値が認識され、次第にレパートリーとして取り上げられる機会が増えています。

メンデルスゾーン自身もまた、優れたヴァイオリン奏者であり、ヴィオラを演奏することもできました。彼は初期の傑作である弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20で自らヴィオラパートを演奏した経験も持っています。このように、楽器の特性や演奏上の難しさを深く理解していたからこそ、このソナタではヴィオラの歌唱性や表現力を最大限に引き出すための配慮が見られます。特に、ピアノパートはヴィオラを圧倒することなく、全体の響きに軽やかさと透明感を与えるように書かれており、ヴィオラが主役となるように構成されています。

曲は全3楽章で構成されており、全体の演奏時間は約25分です。全ての楽章が主音であるハ短調で書かれている点も特徴的です。

第1楽章 アダージョ – アレグロ
4分の4拍子のソナタ形式ですが、冒頭にゆっくりとした序奏（アダージョ）が置かれています。序奏ではピアノが主題を提示し、ヴィオラと対話します。主部（アレグロ）に入ると、ヴィオラが力強く駆け上がるような第1主題を奏で、続く第2主題はピアノによって提示されます。展開部は比較的簡潔に進められます。

第2楽章 メヌエット：アレグロ・モルト - ピウ・レント
複合三部形式による3分の4拍子の楽章です。主部の主題には、後に作曲された交響曲第1番の第3楽章に転用された旋律が含まれています。中間部のトリオは、ハ長調、4分の4拍子で書かれており、対照的な雰囲気を持っています。この楽章は比較的コンパクトにまとめられています。

第3楽章 アンダンテ・コン・ヴァリアツィオーニ
4分の2拍子で書かれた変奏曲形式の楽章で、全曲の中で最も演奏時間が長く、約11分を要します。提示された主題に対して、8つの個性的な変奏が続き、最後にアレグロ・モルトの活気あふれるコーダで締めくくられます。

このヴィオラソナタは、メンデルスゾーンの早熟な才能と、楽器の特性を深く理解した作曲技法を示す初期の傑作であり、ロマン派初期のヴィオラ作品としても重要な位置を占めています。

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