ヴィクトル・エメリ

ヴィクトル・エメリ：200km/hの壁を破った男

ヴィクトル・エメリ (1876年11月18日 - 1950年9月9日) は、20世紀初頭の自動車レース界を代表するフランス人ドライバーの一人です。アメリカでは「無愛想な男」の異名で知られ、数々のレースで上位入賞を果たしましたが、優勝は多くありませんでした。しかし、その卓越したドライビングテクニックと記録更新は、自動車レース史に大きな足跡を残しています。

エンジニアからレーサーへ

13歳でル・マン工科学校に入学し、エンジニアとしての基礎を築いたエメリは、卒業後、レオン・ボレーの下で整備士兼ドライバーとして研鑽を積みました。この経験が、後の彼の成功の礎となりました。

ダラック時代と速度記録

1900年頃、ダラックにテスト部門責任者として迎え入れられたエメリは、ワークスドライバーとしてレースにも参戦。1905年には、アメリカで開催された第2回ヴァンダービルト杯で優勝という栄冠を手にしました。同年12月30日、フランスのアルルでダラック車の運転で速度記録に挑戦。時速176.37kmを記録し、フライングキロメートルの新記録を樹立しました。

ベンツ時代と200km/hの壁

1907年、エメリはドイツのベンツ社に移籍。ヨーロッパとアメリカで数々のレースに出場し、輝かしい成績を残しました。1908年のフランスグランプリでは、ベンツ・150PSで2位に入賞。レース中、跳ね石でゴーグルを破壊され負傷しながらも走り抜けたことは、彼の粘り強さと実力を示すエピソードです。

そして1909年、イギリスのブルックランズでベンツ・REを駆り、速度記録に挑戦。フライングキロメートルで時速202.648kmを記録し、自動車で初めて時速200kmの壁を突破しました。このベンツ・REは後にアメリカに送られ、「ブリッツェン・ベンツ」として知られるようになります。この記録は、当時時速200kmを超えていた鉄道を凌ぎ、1913年に飛行機が時速200kmを超えるまで、地上最速の記録として君臨しました。

後年の活躍と悲劇

1911年にはフィアットで、1912年にはロレーヌ・ディートリッヒでフランスグランプリに優勝するなど、その後も活躍を続けました。しかし、第一次世界大戦の勃発により、レース活動は終焉を迎えます。戦後はヴェルサイユ宮殿の管理や運転免許証検査官として働いていましたが、第二次世界大戦後の経済的な困難から、1950年、74歳という年齢で自殺という悲劇的な最期を遂げました。

まとめ

ヴィクトル・エメリは、優れたエンジニアとしての知識と、並外れたドライビングテクニックを兼ね備えた稀有な存在でした。彼の功績は、単なるレーサーとしての勝利にとどまらず、自動車技術の発展と速度記録の更新に大きく貢献したことにあります。彼の生涯は、栄光と悲劇が交錯する、ドラマチックなものでした。彼の名前は、自動車レース史に永遠に刻まれるでしょう。

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