ブリッツェン・ベンツ

ブリッツェン・ベンツ：伝説のレーシングカー

1909年、ドイツのマンハイムにあるベンツ社（後のメルセデス・ベンツ）は、当時としては画期的なレーシングカー、ブリッツェン・ベンツ（Blitzen Benz）を製造しました。Blitzenはドイツ語で「雷光」「閃光」を意味し、その名の通り、ブリッツェン・ベンツは当時の自動車レース界に衝撃を与えました。

この車両は、空気力学特性の向上を追求して作られた6台のうちの1台です。大排気量の直列4気筒エンジンを搭載し、そのパワーは200馬力（約149kW）に達しました。エンジンの排気量は1312立方インチ（約21,504立方センチメートル）と、当時のレーシングカーとしては非常に大きく、圧倒的な加速力と最高速度を実現しました。

ブリッツェン・ベンツは、グランプリレース参戦を目的として開発されました。その性能の高さを示すように、数々の速度記録を樹立しました。1909年11月9日、イギリスのブルックランズでフランス人レーサー、ヴィクトル・エメリが1キロメートル以上の平均速度202.7キロメートル毎時（約126マイル毎時）という驚異的な記録を達成しました。

さらに1911年4月23日には、アメリカ、デイトナビーチでボブ・バーマンが運転し、1マイル以上の平均速度228.1キロメートル毎時（約141.7マイル毎時）という新たな記録を樹立。これは、1907年にグレン・カーチスがカーチスV-8自動二輪で打ち立てた非公式の陸上・水上・航空機の絶対速度記録を破るものでした。バーマンの記録は、1919年まで破られることはありませんでした。

製造された6台のブリッツェン・ベンツのうち、現在2台が現存しています。そのうちの1台はメルセデス・ベンツが所有しており、もう1台はアメリカの個人コレクターが所有しています。これら現存する車両は、自動車史における貴重な遺産として大切に保管され、時折、イベントなどでその雄姿を見ることができることがあります。

1914年以降、ブリッツェン・ベンツはサーキットレースにも参戦しました。改良が加えられながら、1923年に破損するまで幾多のレースを戦いました。他の車両も、同様の200馬力エンジンを搭載し、レースで活躍しました。

ブリッツェン・ベンツは、単なるレーシングカーという枠を超え、自動車技術の進化、そしてモータースポーツの歴史において重要な役割を果たした一台と言えるでしょう。その存在は、自動車史に燦然と輝く、不滅の伝説として語り継がれています。

もう一度検索