ブルックランズ

ブルックランズ：世界初のモータースポーツ専用サーキットと航空産業の中心地

イギリス、サリー州ウェイブリッジに位置するブルックランズは、20世紀初頭のモータースポーツと航空産業の歴史において、重要な役割を果たした場所です。世界で初めてモータースポーツのために建設された常設コースであり、同時にイギリス航空産業の中心地としても栄えました。

モータースポーツの聖地

20世紀初頭、イギリスでは公道での速度制限が厳しく、レースはアイルランドやマン島などの公道で行われていました。この状況を憂慮したヒュー・ロック・キングという人物は、私財を投じてロンドン南西部の自領地に、世界初のモータースポーツ専用サーキットを建設しました。1907年6月17日にオープンしたこのサーキットは、土地を流れる小川にちなんで「ブルックランズ」と名付けられました。

4.43kmの楕円形のコースは、反時計回りに周回する設計で、コース幅は約30mと非常に広々としていました。コースには「バイフリート・バンキング」と「メンバーズ・バンキング」と呼ばれる、高さ約9mのバンクが設けられ、高速走行を可能としていました。コース中央にはパドックとメインスタンドが配置されたフィニッシング・ストレートがあり、全長は5.23kmに達しました。

ブルックランズは、その超高速コースの特性から、自動車の限界性能を試すレコードランの場としても有名でした。開業時には、コース設計にも携わったセルウィン・エッジが24時間耐久走行に挑戦し、驚異的な記録を樹立しました。その後も、数々のドライバーがブルックランズで記録に挑戦し、200km/hを超える速度を初めて記録した場所としても知られています。1935年には、ジョン・コッブが平均速度230.8km/hという当時の世界記録を達成しました。コース脇の丘では登坂性能テストも行われ、多様なテストが行われていました。

サーキットでは、24時間レースや500マイルレースなどの様々なイベントが開催され、モーターサイクルレースも行われていました。1926年と1927年には、イギリスグランプリもブルックランズで開催されました。

1937年には、レーサーのマルコム・キャンベルが提唱し、2.25マイルのテクニカルコース「キャンベル・サーキット」が追加されました。しかし、第二次世界大戦の勃発により、ブルックランズは軍用機の生産拠点として徴用され、コースは破壊され、サーキットとしての機能を失いました。現在、一部のバンクやテストヒルは残っており、一部は一般公開はされていないものの、走行可能な状態が保たれ、テレビ番組の撮影などで使用されています。

航空産業の中心地

ブルックランズは、モータースポーツだけでなく、イギリス航空産業においても重要な役割を果たしました。1908年には、イギリス人による初の自国での飛行がブルックランズで行われたとされています。1910年には、コース内側にイギリス最古の飛行場のひとつが整備され、飛行訓練や試験飛行、エアレースなどが行われました。

第一次世界大戦以降は、航空機の生産・開発拠点となり、第二次世界大戦中は多くの戦闘機や爆撃機が生産されました。ソッピース、ヴィッカース、ホーカーなどの航空機メーカーの工場が置かれ、膨大な数の航空機がブルックランズで製造されました。1980年代末に工場は取り壊されましたが、その跡地にはビジネスパークや住宅地が建設されています。

現在

現在、ブルックランズの敷地内にはブルックランズ博物館が建設されており、往年のサーキットの様子や航空機の展示、そしてコンコルドのフライトシミュレーター体験も可能です。また、メルセデス・ベンツの英国拠点「Mercedes-Benz World」もオープンし、かつての飛行場跡地には大型試乗コースが整備されています。ブルックランズは、モータースポーツと航空産業の歴史を今に伝える重要な場所として、人々にその存在を記憶させています。

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