ヴィクトール・コルチノイ

ヴィクトール・コルチノイ

ヴィクトール・リヴォヴィッチ・コルチノイ（Viktor Lvovich Korchnoi、Ви́ктор Льво́вич Корчно́й）は、ソビエト連邦に生まれ、晩年はスイス国籍を取得して活動した傑出したチェスプレイヤーである。

生涯と初期のキャリア

1931年3月23日、現在のサンクトペテルブルクにあたるレニングラードで生を受けた。少年時代には第二次世界大戦下のレニングラード包囲戦を経験し、困難な状況下で成長した。チェスの才能を早期に開花させ、25歳の若さでチェス界の最高位であるグランドマスターの称号を得た。

世界選手権への挑戦

コルチノイは、チェスの世界チャンピオンの座を目指し、幾度となくその舞台に登場した。特に、世界選手権の挑戦者を決定するトーナメントには合計10回出場するという驚異的な記録を持つ。強豪がひしめくソビエト国内において、彼は4度にわたり国内チャンピオンの栄誉に輝いている。挑戦者決定戦では、1968年にボリス・スパスキーに、1974年にはアナトリー・カルポフにそれぞれ決勝で敗れた。興味深いことに、彼に勝利したスパスキーとカルポフは、その翌年には実際に世界チャンピオンのタイトルを獲得している。

亡命とその後の影響

ソビエト国内でトッププレイヤーとして活躍していたコルチノイであったが、1975年にオランダ遠征中に西側への亡命を決行した。この行動は、ソビエト国内のチェス界に大きな波紋を呼び、チグラン・ペトロシアンをはじめとする多くの同僚プレイヤーから厳しい批判を浴びた。亡命後、彼は西ドイツを経てスイスに移住し、活動の拠点を移した。

亡命後の1978年、コルチノイは現役の世界チャンピオンであったカルポフとのタイトルマッチに挑戦する機会を得た。この対戦は、単なるチェスの勝負を超え、東西冷戦を背景とした政治的な代理戦争の様相を呈し、大きな注目を集めた。対局は激戦となったが、結果としてコルチノイは敗れた。試合後、コルチノイは対戦相手の陣営に対して、心理的な妨害や催眠術の使用があったと非難するなど、異例の展開となった。1981年にも再びカルポフへの挑戦権を獲得したが、この時もタイトル獲得はならなかった。

棋風と不屈のキャリア

彼の棋風は、特定の戦術に偏らずオールラウンドであったが、特に相手の攻撃を受け流し、効果的な反撃に転じる展開を得意とした。複雑な局面、特に中盤から終盤にかけての深い読みと正確な判断力には定評があり、全盛期には「白番では相手に機会を与えずに勝ち、黒番では相手に機会を与えるものの、最終的にはやはり勝つ」と評されるほど、その実力は高く評価されていた。

世界チャンピオンのタイトルには手が届かなかったものの、コルチノイは並外れた持久力と精神力で、極めて長い期間にわたり世界のトップレベルの棋力を維持したことで知られる。2006年には、75歳にして世界シニアチャンピオンのタイトルを獲得。さらに驚くべきは、2007年1月時点で世界のトップ100プレイヤーの中に名を連ねており、その年齢は75歳であった。当時のトップ100における次点の高齢プレイヤーが53歳であったことを考えると、彼のキャリアの特異性が際立つ。

80歳を迎えた2011年時点でも、世界ランキング400位台（アクティブな選手の中ではさらに上位）に位置し、イロレーティングも2500を超えて、依然として現役選手として活動を続けていた。2016年6月6日に85歳でその生涯を閉じるまで、国際チェス連盟（FIDE）のリスト上で確認できる最年長のアクティブなプレイヤーの一人であった。

著作活動にはあまり積極的ではなかったが、ルークを使った終盤戦に関する専門書と、自身のベストゲームを集めた棋譜集を出版している。

ヴィクトール・コルチノイは、その不屈の闘志、政治的亡命、そして類稀なるキャリアの長さによって、チェスの歴史において独特な地位を占めるプレイヤーである。

もう一度検索