ヴィットリオ・ブランビラ

ヴィットリオ・ブランビラ：雨の魔術師とモンツァゴリラの生涯

ヴィットリオ・ブランビラ (1937年11月11日 - 2001年5月26日) は、イタリア出身の元レーシングドライバーであり、F1界にその名を刻んだ伝説的な人物です。時に「ヴィットリオ・ブランビッラ」と表記されることもあります。強面の容貌とアグレッシブなドライビングスタイルから「モンツァゴリラ」という愛称で親しまれ、多くのファンを魅了しました。兄はオートバイレーサー、カーレーサーとして活躍したエルネスト・ブランビラです。

華麗なる走り：雨の魔術師

ブランビラの最大の特徴は、雨のレースにおける圧倒的な強さです。マシンの性能差が縮まる雨天コンディション下では、抜群のドライビングテクニックと度胸で幾度も好成績を収め、「雨の魔術師」という異名をとりました。彼のF1での唯一の優勝である1975年オーストリアグランプリも、豪雨に見舞われたレースでした。このレースでは、優勝に加えファステストラップも記録する圧巻の走りを見せつけました。しかしながら、常にトップレベルのマシンに恵まれたわけではなく、キャリアを通して安定した成績を残すには至りませんでした。

レーシングキャリア：二輪から四輪へ

ブランビラのレーシングキャリアは二輪から始まりました。イタリア国内175ccクラスでチャンピオンを獲得した後、1969年に四輪に転向。イタリアF3に参戦し、1970年からF2にも参戦するなど、精力的にレース活動を展開します。そして1972年には、イタリアF3でチャンピオンの座に輝きました。

1974年、マーチからF1デビューを果たします。しかし、マシンの性能に苦しみ、入賞は1回（6位）のみに終わりました。1975年もマーチでF1に参戦。厳しいシーズンを送る中、スウェーデングランプリではポールポジションを獲得するなど、才能の片鱗を見せつけました。

1976年もマーチで戦いますが、マシンの性能不足に悩まされ、入賞は1回（6位）に留まりました。1977年と1978年はサーティースに移籍しますが、マシンは依然としてトップレベルとは言えず、2年間で入賞は4回でした。1978年イタリアグランプリでは、スタート直後の多重事故に巻き込まれ、頭部を負傷し一時意識不明の状態に陥るという大きなアクシデントに見舞われます。幸い回復したものの、同じ事故に遭ったロニー・ピーターソンは翌日に亡くなっており、ブランビラは大きな衝撃を受けました。

事故からの回復後、1979年と1980年はスポット参戦にとどまり、1980年をもってF1から引退しました。

生涯と逸話：カメラバッグとメディカルカー

引退後は静かに余生を過ごしていたブランビラでしたが、2001年5月26日、自宅の庭で草刈り中に心臓発作を起こし、63歳で亡くなりました。

彼の生涯には数々の逸話が残されています。1975年オーストリアグランプリでの初優勝時、興奮のあまりステアリングから両手を離してガッツポーズをした結果、ウイニングラン中にクラッシュするという珍事が起こりました。ノーズを破損したにもかかわらず、彼はコースに戻ってからもガッツポーズをやめなかったと言われています。

また、サーティース時代に予選中にコースアウトし、コース脇にいたカメラマンを撥ねそうになった際、カメラマンは無傷でしたが、カメラバッグを壊してしまい、ブランビラはサーティースチームのメカニックに修理を依頼したというエピソードも有名です。

さらに、1980年代後半にはイタリアグランプリでメディカルカーを運転する機会があり、同乗した医師に「どれくらいの速度で走れば良いか？」と尋ねたところ、「どれくらいで走っても構わないが、トップには立たないように」と返されたという面白いエピソードも残っています。

ヴィットリオ・ブランビラ。その名は、F1の歴史に、稀代の「雨の魔術師」として、そして「モンツァゴリラ」として、永遠に刻まれています。

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