ヴィルヘルム・クーノ

ヴィルヘルム・カール・ヨーゼフ・クーノ（Wilhelm Carl Josef Cuno, 1876年7月2日 - 1933年1月3日）は、ドイツの実業家、そして政治家です。ヴァイマル共和政期の1922年から1923年にかけて、首相として短期間ながらも重要な役割を担いました。

生い立ちと教育

1876年、クーノはプロイセン王国のザクセン州ズール（現在のテューリンゲン州）で生まれました。父アウグスト・ゲオルギー・ヴィルヘルム・クーノと母カタリーナ・エリザベート・テレジアの息子として誕生しました。パーダーボルンのギムナジウムを卒業後、ベルリン大学とハイデルベルク大学で法学を学びました。在学中は複数のカトリック系学生団体に所属し、1900年にはブレスラウ大学から博士号を授与されました。1906年にはハンブルクの実業家の娘、マーサ・ベルタ・ヴィルツと結婚し、3人の息子と2人の娘をもうけました。

官僚から実業家へ

地方裁判所での勤務を経て、1907年に帝国財務庁に入庁し、統制官としてキャリアをスタートさせました。その後、戦時食糧庁や帝国穀物庁で勤務し、戦時経済に関する枢密顧問官を務めました。第一次世界大戦中の1917年、クーノは官僚の職を辞し、ハンブルク・アメリカ運輸株式会社（HAPAG）に入社しました。

海運業界での活躍

終戦後の1918年、[ドイツ革命]]の混乱の中で、前任者の自殺を受けてHAPAGの代表取締役に就任し、世界的な海運業界のリーダーとなりました。経済専門家として、敗戦国ドイツと連合国との交渉に多数参加しましたが、財務官や外相の要請は一貫して断り続けました。クーノは一時ドイツ人民党]に所属していましたが、右派のカップ一揆に対する同党の曖昧な態度に失望し、離党後はリベラル政党からの誘いも断り、[[無所属を貫きました。

首相としての短い期間

1922年、ヴィルト内閣の退陣を受けて、フリードリヒ・エーベルト大統領の指名により、中央党、ドイツ人民党、バイエルン人民党の連立による少数与党の「経済内閣」を組織しました。クーノはヴァイマル共和国において、国会の承認なしに大統領権限で首相に就任した最初の人物です。リベラル保守の政治姿勢を持つクーノの閣僚の多くは経済界から招聘され、賠償金問題で大きな影響力を持つアメリカ合衆国との良好な関係が期待されていました。しかし、就任直後の1923年1月、フランス軍とベルギー軍によるルール占領が起こり、賠償金の取り立てを目的とした占領軍に対し、クーノはルール地方の労働者にストライキを呼びかけ、受動的な抵抗運動を試みました。しかし、政府がストライキ中の労働者の給与を肩代わりしたことで財政は危機に陥り、議会の多数派が新内閣の樹立を求めたため、クーノ内閣はわずか9ヶ月で退陣することとなりました。

その後

1925年のドイツ大統領選挙では候補として名前が挙がりましたが、クーノ自身がパウル・フォン・ヒンデンブルクを支持したため、実現には至りませんでした。1926年、クーノはHAPAGの代表取締役に復帰し、1927年にはハンブルクでドイツ初のロータリークラブを設立し、その会長を務めました。ナチスとドイツ共産党の勢力が拡大し、議会が混乱する中、DVPはクーノに復党を働きかけましたが、彼はそれを拒否しました。1932年には、財界のナチ党経済問題諮問機関である「ケップラー・グループ」に参加しましたが、ナチ党首アドルフ・ヒトラーの首相就任には反対し、政局の危機は超党派内閣の設立によって乗り越えるべきだと主張しました。

死去

翌1933年1月、クーノは心臓発作のため、ハンブルク郊外の自宅で亡くなりました。

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