ヴィンス・ギル

ヴィンス・ギル：カントリー界の生ける伝説

ヴィンス・ギル（Vincent Grant Gill、1957年4月12日生まれ）は、アメリカ合衆国を代表するカントリー・ミュージックのシンガーソングライターであり、卓越したマルチプレイヤーです。オクラホマ州ノーマンに生まれた彼は、そのキャリアを通じて数多くのヒット曲を生み出し、音楽界で輝かしい実績を築き上げてきました。

音楽への目覚めと初期のキャリア

ギルが音楽の道に進んだのは、弁護士でありながらカントリー・バンドで演奏していた父ジェイ・スタンリー・ギルの影響が大きいです。幼い頃から父に励まされ、バンジョーやギターといった様々な楽器を習得しました。高校時代には既に複数のバンドで活動しており、ブルーグラスやカントリーロックといったジャンルで腕を磨きました。特に、プロとしての活動を本格化させたのは10代後半に参加したブルーグラス・レヴューズや、リッキー・スキャッグスのバンド、バイロン・バーリン・アンド・サンダンスなどでの経験を経てからでした。

ブレイクとソロ活動の開始

彼の名が広く知られるようになったのは、1970年代後半にカントリーロック・バンド、ピュア・プレイリー・リーグのフロントマンとして参加してからです。1979年のアルバム『Can't Hold Back』で全米デビューを果たし、ヒット曲「Let Me Love You Tonight」でリード・ボーカルを務め、商業的な成功と名声を得ました。

1983年、ギルはソロアーティストとしての道を歩み始めます。これを機に、シンガーとしてもミュージシャンとしてもその才能を大きく開花させました。伸びやかな歌声と高度なギターテクニックは高く評価され、多くのアーティストからゲスト参加やデュエットのオファーを受けるようになります。

輝かしい実績と受賞の歴史

ソロキャリアにおいて、ギルは20枚以上のスタジオ・アルバムを発表し、その総売上は2,200万枚を超えるという驚異的な数字を記録しています。『ビルボード』誌のカントリー・チャートには40曲以上のシングルがランクインするなど、商業的な成功を収め続けました。

彼の業績は数々の賞によって称えられています。カントリーミュージック協会（CMA）主催のCMAアワードでは、最高賞であるエンターテイナー・オブ・ザ・イヤーを2度、男性ボーカリスト賞を5度含む、計18回もの入賞を果たしました。中でも特筆すべきは、グラミー賞の受賞歴です。彼は40回ノミネートされ、実に20回もの受賞を誇り、これは男性カントリー歌手としては史上最多の記録です。これらの功績が認められ、2007年にはカントリー・ミュージック殿堂入り、2005年にはナッシュビル・ソングライター殿堂入りを果たし、2012年にはハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに星を刻みました。

多様な活動と新たな挑戦

ギルは自身の活動に加えて、カントリー音楽の伝統的な舞台であるラジオ番組『グランド・オール・オープリー』のメンバーとして、1991年から長年にわたり貢献しています。また、ダイアー・ストレイツ、ドートリー、ジョー・ボナマッサ、ボニー・タイラー、ケリー・クラークソンなど、ジャンルを超えた幅広いアーティストとのコラボレーションやレコーディング参加も積極的に行っています。

2012年には、カントリー・スウィング・グループのタイム・ジャンパーズに参加し、アルバムをリリースするなど、自身のルーツであるブルーグラスや伝統的なカントリーへの敬意も示しています。そして2017年からは、伝説的なバンド、イーグルスにグレン・フライの後任として参加し、リード・ギターやボーカルを担当するなど、キャリアの新たな局面を迎えています。

人となりとプライベート

プライベートでは、二度の結婚歴があります。最初の妻であるジャニス・オリヴァー（カントリー姉妹デュオ「スウィートハーツ・オブ・ザ・ロデオ」のメンバー）との間に娘ジェニファーをもうけましたが、後に離婚。2000年にクリスチャン・ポップ歌手のエイミー・グラントと再婚し、娘コリナが誕生しています。また、熱心なスポーツファンとしても知られており、地元ナッシュビルのNHLチーム、ナッシュビル・プレデターズやオクラホマ大学のフットボールチーム、ベルモント大学のバスケットボールチームなどを応援しています。自身の趣味としては、高い技術を持つゴルファーでもあります。

主要スタジオ・アルバム

The Things That Matter (1985)
『ザ・ウェイ・バック・ホーム』 - The Way Back Home (1987)
When I Call Your Name (1989)
『ポケット・フル・オブ・ゴールド』 - Pocket Full of Gold (1991)
『アイ・スティル・ビリーヴ・イン・ユー』 - I Still Believe in You (1992)
Let There Be Peace on Earth (1993)
『ホェン・ラヴ・ファインズ・ユー』 - When Love Finds You (1994)
Souvenirs (1995)
『ハイ・ロンサム・サウンド』 - High Lonesome Sound (1996)
The Key (1998)
Breath of Heaven: A Christmas Collection (1998)
Let's Make Sure We Kiss Goodbye (2000)
'Tis the Season (2000) ※with オリビア・ニュートン＝ジョン
Next Big Thing (2003)
These Days (2006)
Guitar Slinger (2011)
『ベイカーズフィールド』 - Bakersfield (2013) ※with ポール・フランクリン
『ダウン・トゥ・マイ・ラスト・バッド・ハビット』 - Down to My Last Bad Habit (2016)
* Okie (2019)

ヴィンス・ギルは、その卓越した音楽的才能と温かい歌声で、カントリー・ミュージック界において揺るぎない地位を確立しました。長年にわたるキャリアの中で、彼は数多くのファンを魅了し続け、後進のアーティストにも大きな影響を与えています。今なお現役で活動を続け、カントリー音楽の魅力を世界に発信し続けている生ける伝説です。

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