ヴィヴィアナ・ソフロニツキー

ヴィヴィアナ・ソフロニツキーは、ロシア系カナダ人として国際的に活躍する古典派ピアニストです。高名なロシア・ソ連のピアニスト、ウラジーミル・ソフロニツキーを父に持ち、その豊かな音楽的血統を受け継ぎながらも、特に古楽器フォルテピアノを用いた歴史的演奏法の分野で独自の道を切り拓いてきました。

彼女の音楽キャリアは、モスクワの中央音楽学校で始まり、その後モスクワ音楽院で研鑽を積み、博士号を取得しました。モスクワ音楽院在籍時には、アレクセイ・リュビモフが率いる室内楽アカデミーに所属し、マドリガルを専門とする傍ら、ソ連国内各地でソロリサイタルを開催し、演奏家としての地歩を固めました。

1989年、ソフロニツキーは活動の場を米国に移し、オーバリン音楽院で教鞭をとりました。翌1990年にはカナダへと渡り、トロントを拠点に精力的な活動を展開します。この地では、著名なターフェルムジーク・バロック管弦楽団のメンバーと共演を重ね、古楽器演奏への傾倒を深めていきました。また、自身でアカデミーコンサート・シリーズを創設するなど、企画・プロデュースの分野でも手腕を発揮。1994年にはカナダ市民権を取得し、北米での活動基盤を確立しました。

2001年以降、彼女はチェコ共和国に居を構えています。ここで彼女は、名高いフォルテピアノ製作者であるポール・マクナルティと出会い、結婚しました。マクナルティ氏が製作する歴史的な仕様に基づいた貴重な楽器たちとの出会いは、ソフロニツキーの演奏活動に大きな転換点をもたらします。彼女はこれらの楽器を積極的に用い、そのレパートリーをカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの時代からフランツ・リストに至るまで大幅に拡大しました。異なる時代の楽器が持つ独自の音色や表現力を探求することは、彼女の芸術活動の中心となっています。

ヴィヴィアナ・ソフロニツキーの古楽器演奏における貢献は特に顕著です。中でも特筆すべき業績として、2010年に達成されたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの鍵盤楽器とオーケストラのための全作品の録音（PMC / ETCeteraレーベル）が挙げられます。これは、世界で初めて当時のオリジナル楽器（フォルテピアノとピリオド楽器オーケストラ）を用いて行われた全集録音であり、音楽史や演奏史の研究において極めて重要な記録となっています。さらに、2017年にはフレデリック・ショパンが生きた時代のワルシャワピアノ（ブッフホルツによって精緻に復元された楽器）を使用して演奏を行うなど、歴史的な楽器の復元や普及にも深く関わっています。

彼女はまた、国内外の主要な音楽祭に定期的に招かれて演奏を披露するほか、マスタークラスを開催するなど、教育活動にも熱心に取り組んでいます。録音活動も多岐にわたり、以下のようなアルバムがリリースされています。

W.A. Mozart: 鍵盤楽器とオーケストラのための全作品（オリジナル楽器による世界初全集）
Felix Mendelssohn: チェロとフォルテピアノのための全作品（チェロ：セルゲイ・イストミン）
Francizsek Lessel: ピアノとオーケストラのための作品
Beethoven, Hummel, Neuling: フォルテピアノとマンドリンのための作品集（マンドリン：リチャード・ワルツ）
Ludwig van Beethoven: クラリネット、チェロ、フォルテピアノのための三重奏曲集 Op.11, Op.38（アンサンブル「Die Gassenhauer」として）
Fryderyk Chopin: チェロとピアノのための全作品（チェロ：セルゲイ・イストミン）
Franz Schubert: さすらい人幻想曲 Op.15、即興曲集 Op.142, Op.90
Johann Ladislaus Dussek: ソナタ集 Op.9, Op.75

これらの録音は、彼女の幅広いレパートリーと、様々な時代のフォルテピアノが持つ魅力的な響きを伝える貴重な音源となっています。

ヴィヴィアナ・ソフロニツキーは、偉大な父の遺産を受け継ぎつつも、古楽器という独自の領域で国際的に高い評価を確立したピアニストです。その飽くなき探求心と情熱は、過去の時代の音楽を最も忠実な形で現代に蘇らせることに大きく貢献しています。彼女の活動は、歴史的演奏法の研究と実践に関心を持つ多くの音楽家や愛好家に影響を与え続けています。

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