ヴィーナス、キューピッド、バッカス、ケレス (1612年)

『ヴィーナス、キューピッド、バッカス、ケレス』

ピーテル・パウル・ルーベンスによって1612年から1613年に制作された油彩画『ヴィーナス、キューピッド、バッカス、ケレス』は、ローマ神話に登場する4人の神々を描いた作品です。この絵画は、ルーベンスがイタリア滞在中にローマ神話の主題に触れた経験が反映されています。現在は、カッセル古典絵画館に所蔵されています。

作品の背景

ルーベンスは、マントヴァ公ヴィンチェンツォ1世・ゴンザーガの宮廷で8年間働いた後、この作品を制作しました。そのイタリアでの滞在中に、彼はローマ神話のテーマに深く触れる機会を得ました。この絵画は、古代ローマの喜劇詩人プブリウス・テレンティウス・アフェルの「ケレス（穀物の神）とバッカス（酒の神）がいなければ、ヴィーナスは凍えてしまう」という詩句に基づいています。この詩句は、空腹で素面では恋は生まれないという辛辣な恋愛観を寓意的に表現しています。

16世紀から17世紀にかけて、ネーデルラントではこの主題が広く愛されました。しかし、この主題は同時に、過度の飲食が性的放蕩を招くという警告の意味も持っていました。ルーベンス自身も、この主題を異なる様式で複数回描いています。

絵画の詳細

本作では、ケレスとバッカスがヴィーナスに酒や果物を差し出している様子が描かれており、愛が生まれるための条件を視覚的に表しています。ルーベンスは、過度な飲酒ではなく、適度な飲酒を描いています。バッカスの盃が中央に位置する古典的な均衡のある構図、抑制された色調、彫像のような人物像は、適度な飲酒を暗示しています。3人の裸体表現は、同時期の作品『楽園の四つの河』と共通する彫刻的な特徴を示しています。ケレスのポーズは古代彫刻『蹲るヴィーナス』、ヴィーナスのポーズはミケランジェロの『夜』から着想を得ています。背景が暗く閉ざされているため、人物像は『楽園の四つの河』の人物像よりもさらに浮き彫りのように見えます。

作品の意義

『ヴィーナス、キューピッド、バッカス、ケレス』は、ルーベンスがローマ神話の主題を深く理解し、自身の芸術的な表現に取り入れたことを示す作品です。この絵画は、愛の成立には物質的な豊かさが必要であるという、少し皮肉な視点を提示しています。しかし、同時に、過度の享楽に対する戒めも含まれており、見る者に様々な解釈の余地を与えています。古典的な構図と彫刻的な人物描写は、バロック美術の力強さと豊かさを体現しています。

ギャラリー

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脚注

[参考文献]

山崎正和、高橋裕子『ルーベンス』中央公論社〈カンヴァス世界の大画家 13〉、1982年12月。ISBN 978-4-12-401903-2。

[外部リンク]

カッセル古典絵画館公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『ヴィーナス、キューピッド、バッカス、ケレス』 (ドイツ語の英訳)

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