ヴェストフォル・オ・テレマルク県

ヴェストフォル・オ・テレマルク県：短命に終わったノルウェーの合併県

ヴェストフォル・オ・テレマルク県は、ノルウェー南東部に位置していた県です。北にはヴィーケン県、東にはオスロ・フィヨルド、南にはアグデル県、南西にはローガラン県、西にはヴェストラン県と接していました。県庁所在地はシーエン、県知事所在地はトンスベルグに置かれ、2023年にはセルヨルド地域県庁舎も開設されました。

この県は、2020年1月1日にヴェストフォル県（スヴェルヴィクを除く）とテレマルク県の合併によって誕生しました。しかし、その寿命は長くはなく、わずか4年後の2024年1月1日に再びヴェストフォル県とテレマルク県へと分割されることとなりました。2024年1月9日時点では、県知事が両県を兼任する形での留任が確認されています。

県名の由来と合併・分割の経緯

ヴェストフォル県とテレマルク県は、歴史的・文化的に異なる背景を持つ地域です。そのため、合併に際してはそれぞれのアイデンティティを尊重し、旧県の名称をそのまま使用するという決定がなされました。合併協議の初期段階では、スカゲラク海峡に面していることから「スカゲラク県」という名称も提案されましたが、最終的には現在の名称が採用されました。また、ヴェストフォル県議会は「ヴェスト・ヴィーケン県」を提案しましたが、テレマルク県がヴィーケン地域に含まれないことや、この名称がナチス・ドイツ協力政権との関連性を持つことから、この案は撤回されました。

合併に至るまでの道のりは長く、数年にわたる議論が続けられました。当初、ヴェストフォル県議会はテレマルク県とブスケルー県の3県合併を希望していましたが、テレマルク県議会は2017年4月にヴェストフォル県との2県合併に反対を表明しました。しかし、同年6月にはストーティング（ノルウェー国会）でヴェストフォル県とテレマルク県の合併が可決され、2020年の合併へと繋がりました。県庁所在地はテレマルク県の主張によりシーエンに決定されました。合併に先立ち、2019年1月1日には両県の県知事が統合されました。

しかし、合併後も県名を巡る議論は続き、2021年末の世論調査では、69%が県の分割に賛成する結果となりました。2022年2月には県議会が分割を可決、6月にはストーティングで分割が承認されました。分割費用は1億5000万ノルウェークローネと試算され、その費用や使い道に関する懐疑的な声も上がりました。2022年11月の世論調査では、分割への賛成は37%に減少し、反対は48%に増加しており、費用問題が世論に影響を与えたことが窺えます。

政治と基礎自治体

ヴェストフォル・オ・テレマルク県には、23の基礎自治体（Kommune）がありました。ノルウェーではブークモールとニーノシュクの2つの公用語が存在し、自治体によって異なる表記法が採用されています。「中立（Nøytral）」は、どちらの表記法にも限定しないことを意味します。2023年3月時点では、中立が10、ブークモールが5、ニーノシュクが8の自治体がありました。

2020年1月1日の行政改革では、いくつかの自治体が廃止され、他の自治体と合併しました。旧ヴェストフォル県ではレー（トンスベルグに編入）、サンデ（ホルメストランに編入）、スヴェルヴィク（ヴィーケン県ドランメンに編入）が廃止されました。旧テレマルク県では、ボーとソーヘラッドが合併して中部テレマルク市が誕生しました。

ヴェストフォル・オ・テレマルク県は、短命に終わったものの、ノルウェー地方行政における合併と分割の複雑なプロセスを象徴する事例と言えるでしょう。歴史的背景、政治的思惑、そして住民感情が複雑に絡み合った結果、誕生と消滅を繰り返したこの県は、今後の地方行政改革を考える上で重要な教訓を残しました。

もう一度検索