ヴェニスの子供自動車競走
『ヴェニスの子供自動車競走』（Kid Auto Races at Venice）は、1914年に公開された短編サイレント映画で、チャールズ・チャップリンがキーストン社で製作した2作目にあたります。監督はヘンリー・レアマンが務めました。
この作品は、チャップリンの「放浪者＝トランプ」の扮装、通称「チャーリー」が初めて登場した作品として長らく信じられてきました。しかし、その後の研究で「チャーリー」の初登場は本作ではないという異論も出ています。いずれにせよ、当時の観客にとって、本作は「チャーリー」が初めて登場した劇場公開作品であり、「チャーリー」が映画史における最も有名なキャラクターの一つとなるきっかけとなった重要な作品であることに変わりはありません。
本作の正式タイトルは、近年の研究により『子供自動車競走』（Kid Auto Races）であることが判明しています。また、日本での公開は不明ですが、チャップリンの伝記を著した映画史家デイヴィッド・ロビンソンのフィルモグラフィーに記載された邦題が用いられています。
2020年には、アメリカ議会図書館によって「文化的、芸術的、歴史的に重要である」としてアメリカ国立フィルム登録簿に登録され、永久保存されることになりました。
物語の舞台は、カリフォルニア州ヴェニスで開催された子供自動車レースです。チャップリンは、レースを見物する群衆の一人として登場し、撮影中のカメラの前に何度も現れては、自分が映ろうとしたり、レースの邪魔をしたりと、周囲をイライラさせる役を演じます。このコミカルな役柄の着想について、チャップリンは後年、フレッド・カーノー劇団でアメリカを巡業中に見たカーニバルのパレードで、撮影中のカメラに執拗に身を乗り出す役人の姿がヒントになったと語っています。
ロビンソンは、本作をほぼ同時期に製作された『メーベルの窮境』と比較して、比較的簡便な作品と評しています。しかし、本作は実際のレース会場で撮影されており、チャップリンは他の共演者とともに、本物の観客の前で演技をしています。このレースは、近郊のサンタモニカで開催されたヴァンダービルト杯を記念したジュニア版レースがモデルになっています。ジュニア版レースでは、ソープボックスダービーと呼ばれるエンジンなしの自動車のために加速用のランプが設けられましたが、本作にも同様の建造物が映っています。このジュニア版ヴァンダービルト杯は、1914年に一度開催されたのみでしたが、約100年後の2012年に、当時のトロフィーが発見されオークションにかけられました。
前述のように、本作は「チャーリー」が初めて登場した作品とされてきましたが、チャップリン本人は『メーベルの窮境』の方が先だと回想しており、ロビンソンもこの回想を尊重して「チャーリー」のデビュー作を『メーベルの窮境』としていました。しかし、スウェーデンの映画学者ボー・ベルイルントは、関係者の証言や当時の天気予報から、本作が先に撮影されたと断定しました。しかし、チャップリン研究家の大野裕之は、その後の研究で『メーベルの窮境』と『ヴェニスの子供自動車競走』で「チャーリー」の扮装に若干の違いが確認されたこと、またキーストン社の資料によると『メーベルの窮境』の撮影開始日が1914年1月6日であることから、『メーベルの窮境』こそがチャップリンが初めて「チャーリー」の扮装をした作品であると結論づけています。
大野は、2005年の著書『チャップリン再入門』ではベルイルントの説を採用していましたが、その中で、初登場の時点で「チャーリー＝弱者＝大衆」と、それに敵対する権力（本作においてはカメラマン）という構図が完成されていると指摘しました。いずれにせよ、「チャーリー」は初登場以降、1940年の『独裁者』まで、観客に愛されるキャラクターとなりました。しかし、初登場から約4年間は、弱者をいじめたり性的にいやらしい役柄を演じることが多く、一般的な「チャーリー」像（優しくイノセントな放浪者）が確立するのは、1918年の『犬の生活』まで待つ必要がありました。
チャールズ・チャップリン - レースの観客
ヘンリー・レアマン - 映画監督
フランク・D・ウィリアムズ - カメラマン
ビリー・ジェイコブズ - 少年
ゴードン・グリフィス
シャーロット・フィッツパトリック - 少女
セルマ・ソールター
2014年10月19日にスター・チャンネルで初回放送されました。チャップリンのデビュー100周年を記念して、日本チャップリン協会監修のもと、日本語吹替版が制作されました。
2005年には、詩人の谷川俊太郎が本作の上映に合わせて、書き下ろした詩を生演奏付きで朗読するライブが行われました。
（注釈、出典、参考文献については省略）
Kid Auto Races at Venice - IMDb（英語）
Kid Auto Races At Venice - youtube（BGM有り）
スキャンダル・イン・ザ・フレーム ： 機械を笑う道化 - 中村 嘉雄、「宇部工業高等専門学校研究報告」第59巻。2013年3月。（『ヴェニスの子供自動車競争』におけるテーマパークとカメラを覗き込むチャップリンの芸術的、脱構築的視線の意義を考察する論文）
この作品は、チャップリンの「放浪者＝トランプ」の扮装、通称「チャーリー」が初めて登場した作品として長らく信じられてきました。しかし、その後の研究で「チャーリー」の初登場は本作ではないという異論も出ています。いずれにせよ、当時の観客にとって、本作は「チャーリー」が初めて登場した劇場公開作品であり、「チャーリー」が映画史における最も有名なキャラクターの一つとなるきっかけとなった重要な作品であることに変わりはありません。
本作の正式タイトルは、近年の研究により『子供自動車競走』（Kid Auto Races）であることが判明しています。また、日本での公開は不明ですが、チャップリンの伝記を著した映画史家デイヴィッド・ロビンソンのフィルモグラフィーに記載された邦題が用いられています。
2020年には、アメリカ議会図書館によって「文化的、芸術的、歴史的に重要である」としてアメリカ国立フィルム登録簿に登録され、永久保存されることになりました。
概要
物語の舞台は、カリフォルニア州ヴェニスで開催された子供自動車レースです。チャップリンは、レースを見物する群衆の一人として登場し、撮影中のカメラの前に何度も現れては、自分が映ろうとしたり、レースの邪魔をしたりと、周囲をイライラさせる役を演じます。このコミカルな役柄の着想について、チャップリンは後年、フレッド・カーノー劇団でアメリカを巡業中に見たカーニバルのパレードで、撮影中のカメラに執拗に身を乗り出す役人の姿がヒントになったと語っています。
ロビンソンは、本作をほぼ同時期に製作された『メーベルの窮境』と比較して、比較的簡便な作品と評しています。しかし、本作は実際のレース会場で撮影されており、チャップリンは他の共演者とともに、本物の観客の前で演技をしています。このレースは、近郊のサンタモニカで開催されたヴァンダービルト杯を記念したジュニア版レースがモデルになっています。ジュニア版レースでは、ソープボックスダービーと呼ばれるエンジンなしの自動車のために加速用のランプが設けられましたが、本作にも同様の建造物が映っています。このジュニア版ヴァンダービルト杯は、1914年に一度開催されたのみでしたが、約100年後の2012年に、当時のトロフィーが発見されオークションにかけられました。
「チャーリー」誕生？
前述のように、本作は「チャーリー」が初めて登場した作品とされてきましたが、チャップリン本人は『メーベルの窮境』の方が先だと回想しており、ロビンソンもこの回想を尊重して「チャーリー」のデビュー作を『メーベルの窮境』としていました。しかし、スウェーデンの映画学者ボー・ベルイルントは、関係者の証言や当時の天気予報から、本作が先に撮影されたと断定しました。しかし、チャップリン研究家の大野裕之は、その後の研究で『メーベルの窮境』と『ヴェニスの子供自動車競走』で「チャーリー」の扮装に若干の違いが確認されたこと、またキーストン社の資料によると『メーベルの窮境』の撮影開始日が1914年1月6日であることから、『メーベルの窮境』こそがチャップリンが初めて「チャーリー」の扮装をした作品であると結論づけています。
大野は、2005年の著書『チャップリン再入門』ではベルイルントの説を採用していましたが、その中で、初登場の時点で「チャーリー＝弱者＝大衆」と、それに敵対する権力（本作においてはカメラマン）という構図が完成されていると指摘しました。いずれにせよ、「チャーリー」は初登場以降、1940年の『独裁者』まで、観客に愛されるキャラクターとなりました。しかし、初登場から約4年間は、弱者をいじめたり性的にいやらしい役柄を演じることが多く、一般的な「チャーリー」像（優しくイノセントな放浪者）が確立するのは、1918年の『犬の生活』まで待つ必要がありました。
キャスト
チャールズ・チャップリン - レースの観客
ヘンリー・レアマン - 映画監督
フランク・D・ウィリアムズ - カメラマン
ビリー・ジェイコブズ - 少年
ゴードン・グリフィス
シャーロット・フィッツパトリック - 少女
セルマ・ソールター
日本語吹替
2014年10月19日にスター・チャンネルで初回放送されました。チャップリンのデビュー100周年を記念して、日本チャップリン協会監修のもと、日本語吹替版が制作されました。
その他
2005年には、詩人の谷川俊太郎が本作の上映に合わせて、書き下ろした詩を生演奏付きで朗読するライブが行われました。
脚注
（注釈、出典、参考文献については省略）
外部リンク
Kid Auto Races at Venice - IMDb（英語）
Kid Auto Races At Venice - youtube（BGM有り）
スキャンダル・イン・ザ・フレーム ： 機械を笑う道化 - 中村 嘉雄、「宇部工業高等専門学校研究報告」第59巻。2013年3月。（『ヴェニスの子供自動車競争』におけるテーマパークとカメラを覗き込むチャップリンの芸術的、脱構築的視線の意義を考察する論文）
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