ヴェロニカ・フランコ

ヴェロニカ・フランコ：ルネサンス期のヴェネツィアを彩った詩人にして高級娼婦

ヴェロニカ・フランコ（1546年 - 1591年）は、16世紀のヴェネツィアでその名を馳せたイタリア人女性です。彼女は、詩人としての才能を持ちながら、高級娼婦（クルチザンヌ）としても知られるという、二つの顔を持つ人物でした。当時のヴェネツィア社会において、高級娼婦は「知的な高級娼婦（cortigiana onesta）」と、下層階級向けの売春婦（cortigiana di lume）の二つに分けられていました。ヴェロニカは、前者、つまり「知的な高級娼婦」として、その才能と美貌で多くの人々を魅了しました。

高級娼婦としての生涯

ヴェロニカは、上流階級向けの高級娼婦の娘として生まれ、幼い頃から母親から芸術を学び、経済的に恵まれた結婚をするための教育を受けました。しかし、最初の結婚はうまくいかず、彼女は生計を立てるために高級娼婦の道を選びました。彼女は卓越した知性と教養を武器に、たちまちヴェネツィアの著名な名士たちと交流するようになり、ついにはフランス国王アンリ3世とも短期間交際するほどでした。

1565年頃には、ヴェネツィアの主要な高級娼婦の一人として「Catalogo de tutte le principal et più honorate cortigiane di Venetia」に掲載され、その名を知られるようになりました。彼女は単なる高級娼婦ではなく、高学歴の女性であり、1575年に「Terze rime」、1580年に「Lettere familiari a diversi」という二つの詩集を出版しました。また、書簡集を出版し、他の作家の作品を選集にするなど、文学的な才能を発揮しました。

これらの出版物は人気を博し、彼女はその収入で高級娼婦やその子供たちのための慈善団体を設立しました。しかし、1575年にヴェネツィアを襲ったペストの流行により、彼女は街からの退去を余儀なくされ、財産の多くを失ってしまいます。1577年にヴェネツィアに戻った際には、魔術の罪で宗教裁判にかけられましたが、最終的には無罪となりました。この無罪放免には、彼女がヴェネツィア貴族と関係を持っていたことが影響したと考えられています。

裁判で無罪となったものの、彼女は財産を失い、晩年は経済的に困窮したようです。彼女の最後の主要な後援者が亡くなった後、経済的な支援が途絶え、貧しい中で亡くなったと推測されています。

文書記録

1565年の記録には、20歳頃のヴェロニカが、ヴェネツィアの最も有名な高級娼婦の一人として、名前、住所、料金が記されたリストに掲載されていました。このリストには、彼女の母親が玉代を受け取る人物として記載されています。また、彼女は18歳になるまでに短い期間結婚しており、最初の子どもを授かっていたと記録されています。彼女は生涯で6人の子供を授かりましたが、そのうち3人は幼くして亡くなっています。

ヴェロニカは、国際都市ヴェネツィアで「最も高貴な高級娼婦（più honorate cortigiane）」の一人として、裕福な生活を送りましたが、常に自分の力で道を切り開く必要がありました。彼女は学問に励み、知識人たちの中に後援者を求めました。1570年代には、市内で最も影響力のある文学サークルの一つに所属し、議論に参加したり、詩選の編集に貢献したりしました。

1575年に出版された最初の詩集「Terze rime」には、彼女の書いた18通の詩（capitoli）と、彼女を称える男性たちが書いた7通の詩が収録されています。同年、ヴェネツィアでペストが流行し、2年間の流行により彼女はヴェネツィアを離れることとなり、多くの財産を失いました。1577年には、貧しい女性たちのための住宅を建設することを市議会に提案しましたが、却下されています。

1580年に出版された「Lettere familiari a diversi」には、フランス国王アンリ3世に宛てた2編のソネットと50通の手紙が収録されています。アンリ3世は、この詩集が出版される6年前にヴェロニカを訪問しています。

メディアでの扱い

ヴェロニカの生涯は、1992年に出版されたマーガレット・F・ローゼンタールの著書「The Honest Courtesan」で紹介され、それを基に、キャサリン・マコーマック主演で1998年に映画『娼婦ベロニカ』として映像化されました。この映画は、彼女の波乱に満ちた人生と、彼女が直面した社会の矛盾を描き出しています。また、セルビア人作家のカタリーナ・ブラオヴィッチによる小説「フランコ」でも、彼女の生涯が描かれています。

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