ヴォルフガング・シュナイダーハン

ヴォルフガング・エドゥアルト・シュナイダーハンは、1915年5月28日にウィーンで生を受けた、オーストリアを代表するヴァイオリニストです。彼は長年にわたりウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務め、その後のソリストとしての輝かしいキャリアや、教育者、室内楽奏者としての活動を通じて、クラシック音楽界に多大な足跡を残しました。

幼少の頃から音楽の才能を示し、ウィーン音楽院で名教師オタカール・シェフチークにヴァイオリンを学び始め、後にユリウス・ヴィンクラーに師事しました。わずか10歳でバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのシャコンヌを公開の場で演奏し、その才能を開花させます。翌1926年には11歳でコペンハーゲンにおいて、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲でオーケストラとの共演による本格的なデビューを飾り、早くからその将来を嘱望されました。

プロのオーケストラ奏者としてのキャリアは、1933年にウィーン交響楽団のコンサートマスターに就任したことから始まります。そこで4年間経験を積んだ後、1937年には世界屈指のオーケストラであるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に移籍し、同団のコンサートマスターとなりました。この移籍は、当時の著名な指揮者であったクレメンス・クラウスの強い推薦によるものであり、彼の傑出した実力は広く認められていたため、通常課せられる入団試験を受ける必要がなかったという逸話が残っています。そして、翌1938年には、当時の第一コンサートマスターであったアルノルト・ロゼがナチスの台頭により亡命を余儀なくされたことを受け、彼はウィーン・フィルの首席コンサートマスターの重責を担うことになりました。オーケストラの顔として、その黄金期を支える重要な役割を果たします。

オーケストラでの中心的な奏者としての活動と並行して、彼はソリストとしての道を追求する強い希望を抱いていました。その目標を実現するため、1949年にウィーン・フィルを退団し、独立したソリストとしての活動を本格的に開始します。以降、彼は世界各地の主要なオーケストラと共演し、国際的な舞台でその卓越した技巧と深い音楽性を披露しました。

室内楽奏者としても非常に重要な存在でした。1938年にはウィーン・フィルの首席奏者たちと共に自身の名を冠した弦楽四重奏団、いわゆるシュナイダーハン四重奏団を結成し、1951年まで活発な演奏活動を行いました。また、ピアニストのカール・ゼーマンとは長年にわたりデュオを組み、録音も多数残しています。さらに特筆すべきは、伝説的なピアニストのエトヴィン・フィッシャー、そしてチェリストのエンリコ・マイナルディとのピアノ・トリオに参加したことです。このトリオは元々ヴァイオリニストのゲオルク・クーレンカンプが参加していましたが、彼の急逝後、後任としてシュナイダーハンが迎え入れられました。彼の室内楽における貢献は高く評価されており、音楽評論家のハンス・ハインリッヒ・エッゲブレヒトは当時、「クーレンカンプの後継者といえたのはウィーン出身のヴォルフガング・シュナイダーハンだけだろう」と評しています。

後進の指導にも情熱を注ぎ、ザルツブルクのモーツァルテウム音楽院、ウィーン音楽大学、そしてルツェルン音楽院など、ヨーロッパ各地の主要な音楽教育機関でヴァイオリン教授を務めました。また、1956年には指揮者のルドルフ・バウムガルトナーと共に、名高いルツェルン音楽祭を拠点とするルツェルン音楽祭弦楽合奏団を創設するなど、アンサンブルの育成にも力を尽くしました。

彼の家族も音楽や芸術と深い関わりがありました。兄のワルター・シュナイダーハンもウィーン交響楽団のコンサートマスターを務めたヴァイオリニストでした。妻は世界的に有名なソプラノ歌手のイルムガルト・ゼーフリートで、1988年に死別するまで音楽家夫婦として互いを支え合いました。夫妻の間には3人の娘がおり、そのうちの一人モナ・ゼーフリートは女優として活躍しています。なお、甥にはドイツ連邦軍総監を務めた同名のヴォルフガング・シュナイダーハンがいます。

ヴァイオリニスト、オーケストラ奏者、室内楽奏者、そして教育者として、多角的な活動を展開したヴォルフガング・シュナイダーハンは、2002年5月18日、86歳でウィーンにてその生涯を閉じました。

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