ヴォルフガング・ボルヒェルト

ヴォルフガング・ボルヒェルト

ドイツの小説家、劇作家、詩人であるヴォルフガング・ボルヒェルトは、1921年5月20日にハンブルクに生を受けました。父は小学校で教鞭をとる傍らオルガン奏者でもあり、母は郷土作家という、文学や芸術に親和性の高い家庭環境でした。こうした両親からの薫陶を受け、彼は15歳頃から詩作を始めています。

実科高等学校を中退したボルヒェルトは、書店員として経験を積む傍ら、俳優として演劇の舞台にも立ちました。また、友人たちと文学サークルを立ち上げ、ドイツ古典主義から表現主義に至るドイツ文学、さらには外国文学まで幅広く読み漁りました。特に彼が深く心惹かれたのは、詩人リルケとヘルダーリンでした。

1941年、リューネブルクの劇団に入団したものの、間もなく第二次世界大戦中のドイツ国防軍に徴兵され、過酷な東部戦線に送られます。軍隊生活では、自傷行為の疑いや反体制的な言動が問題視され、しばしば投獄されました。また、黄疸やチフス、深刻な肝臓障害など、過酷な環境で様々な病に苦しめられるという、精神的にも肉体的にも極めて困難な日々を送りました。1944年にはイェーナの守備隊に移送され、ドイツ敗戦直後にフランス軍の捕虜となります。しかし、護送される最中に脱走を果たし、約600キロもの道のりを歩いて故郷ハンブルクを目指しました。

故郷にたどり着いた後、ボルヒェルトは再び演劇の世界に身を置き、ハンブルク劇場で助監督を務めましたが、病状が悪化し、その職を断念せざるを得なくなりました。歩行も困難となり、その後の約二年間のほとんどを病床で過ごし、ひたすら執筆活動に専念しました。

病床での創作は驚くべきペースで進みました。1946年12月には14編の詩を収めた詩集『街灯、夜と星』を刊行。そして、1946年には26編、翌1947年には21編もの散文作品（そのほとんどが掌編小説）を書き上げました。これらの作品は、1947年に散文集『たんぽぽ』、『この火曜日に』として世に出されます。

特に重要な作品となったのは、戯曲『戸口の外で』です。この作品は、戦争から帰還した復員兵を主人公に、戦後ドイツの厳しい現実と人々の絶望を描いたものでした。1947年2月にラジオドラマとして放送されるやいなや、大きな反響を呼び、西ドイツ各地の放送局で繰り返し放送されたことで、ボルヒェルトの名を一躍世に知らしめました。彼は、戦後のドイツ文学における「瓦礫文学」（Trümmerliteratur）の代表的な作家として位置づけられることになります。その文体は、表現主義の影響を受けた、短く鋭く、読者の心に直接訴えかけるような鮮烈さを持っています。

彼の名は高まりますが、病は進行していました。1947年9月、療養のためスイスのサナトリウムへと向かいましたが、彼の肝臓疾患はすでに治療不可能なほど進行しており、その年の11月20日、同地バーゼルの病院で短い生涯を閉じました。わずか27歳でした。奇しくも、ハンブルク劇場で戯曲『戸口の外で』が初演されたのは、彼の死の翌日であったといいます。

短いながらも、ボルヒェルトの生涯は戦中戦後のドイツの苦難を体現しており、その経験が彼の作品に深みを与えています。彼の残した約40編の掌編や詩、そして戯曲は、今なお多くの人々に読まれ続けています。

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