一九三四年冬―乱歩

一九三四年冬―乱歩

概要

『一九三四年冬―乱歩』は、作家・久世光彦が創り出した小説である。この作品は、1991年2月から1993年5月にかけて集英社の月刊PR誌『青春と読書』に連載され、1993年12月に単行本として刊行された。その後、1997年に新潮文庫、2013年には創元推理文庫として再刊され、文学界で高い評価を受けた。特に第7回山本周五郎賞を受賞したことでも知られ、著者の名声を決定づけた作品でもある。

あらすじ

物語の背景は、1934年の1月。江戸川乱歩は、執筆中の作品『悪霊』に行き詰まっていた。彼は精神的な壁を乗り越えるため、麻布にある異国情緒あふれる「張ホテル」に滞在することに決めた。このホテルで彼は、アメリカ人の人妻や謎めいた中国人青年と出会う。彼女は音楽に情熱を燃やしており、彼との交流を通じて、彼女が体験する様々な感情も示される。さらに、乱歩はこの滞在中に短編『梔子姫』を執筆し、スランプから脱するきっかけを掴む。

登場人物

• - 江戸川乱歩: 40歳の作家で、『新青年』に連載していた『悪霊』の執筆を放棄して旅に出る。ホテルでは偽名を使いながらも、個性的で癖のある性格を持つ。
• - 翁華栄: ホテルの中国人ボーイ。観察力に優れており、乱歩の正体を突き止める。その美しいルックスとは裏腹に、彼は乱歩を絡め取るような存在。
• - メイベル・リー: アメリカから来た人妻で、探偵小説の愛好者。マンドリンを習い、詩に曲をつけて歌うことが趣味。
• - ハッサン・カン: 過去にホテルに宿泊していた貿易商で、奇妙な体験をしたと語る。
• - アントニオーニ: 以前滞在していたイタリア人の老人で、音楽と喘息に悩むピアニスト。

評価と特徴

本作は、久世光彦の独特な文体と耽美的な世界観で構成されており、読者を魅了する。特に、改行が少ない独自のスタイルは、物語に没頭させる要因となっている。久世が「他の作家に比べて改行が少ないのは、一気に読んでほしいから」という想いから生まれたスタイルだ。

第7回山本周五郎賞に輝いたこの小説は、1994年の直木賞にもノミネートされ、その一方で賛否が分かれた。不当に評価されることもあったが、改めて文学的な深さを見せつける作品である。

その他の情報

作品中に登場する「アナベル・リー」という曲は、エドガー・アラン・ポーの詩に基づき、物語の人物が設けた曲に仕立てられている。この設定には久世光彦の音楽的センスも反映されており、作品にさらなる深みを与える要素となっている。特に、久世は俳優・作曲家の小林亜星と共に多くの作品を創り上げてきたことも知られている。

書誌情報

• - 初版: 1993年12月、集英社
• - 新潮文庫版: 1997年2月、解説=井上ひさし
• - 創元推理文庫版: 2013年1月、解説=戸川安宣、翁華栄

『一九三四年冬―乱歩』は、久世光彦の小説として、江戸川乱歩を通じた探偵小説の魅力を再発見させ、文学の楽しさを改めて感じさせてくれる作品である。

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