一人称単数 (村上春樹)

村上春樹の短編小説集『一人称単数』

『一人称単数』は、著名な作家村上春樹による短編小説集で、2020年7月20日に文藝春秋から発刊されました。この作品集には、2018年から2020年にかけて『文學界』に発表された7つの短編と、新たに書き下ろされたタイトル作「一人称単数」が収録されています。合計8篇の物語は、様々なテーマや感情を掘り下げており、村上作品ならではの独特な世界観が楽しめます。

発刊の背景と特徴

『一人称単数』は、村上が『騎士団長殺し』以来3年ぶりに発表した小説で、短編集としては『女のいない男たち』以来6年ぶりの刊行となります。初版発行部数は18万部という大きな数字を記録し、発売前には増刷も行われ、最終的には約23万部に達しました。

新型コロナウイルスの影響により、カウントダウンイベントは行われませんでしたが、発売当日の三省堂書店では開店時間を早め、特別な展示が行われました。装画は豊田徹也、装幀は大久保明子が手掛け、デザインにも特別なこだわりが感じられます。豊田氏は依頼を受けた際には異議を唱えたものの、説得を受けて受け入れたと話しています。彼は、作品のカバーが素晴らしく仕上がったのは、デザイナーのおかげであると述べています。

収録作品とその内容

『一人称単数』には、以下の8つの短編が収められています：

1. 石のまくらに
大学生活の片隅での淡い恋愛模様が描かれ、相手の女性の存在が記憶に残る様子が表現されます。彼女との一夜の出来事が、当時の思い出として心の奥にしまわれていきます。

2. クリーム
浪人時代の思い出とともに、人生の意味を探求する姿が描かれ、奇妙な出会いがもたらす哲学的思索が展開されます。

3. チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ
架空の記事を書いたことから生まれる不思議なエピソードが巡り、夢の中で過去の偉人との交流を試みる物語が展開されます。

4. ウィズ・ザ・ビートルズ
ビートルズの音楽と初恋の苦しみが交錯し、記憶とともに忘れられない思い出がつづられます。

5. ヤクルト・スワローズ詩集
野球を愛する「僕」の思い出がつづられ、父との関係や過去の出来事が詩として表現されます。

6. 謝肉祭（Carnival）
特異な出会いから生じる感情の葛藤が描写され、見るものにしか分からない心の奥のストーリーが展開されます。

7. 品川猿の告白
不思議な猿との出会いから思い出される出来事を通じて、名前の意味や忘却の美しさが探求されます。

8. 一人称単数
主人公の苦悩と自己のアイデンティティの探求が描かれ、様々な側面から自己の存在を問いかける深い内容となっています。

これらの短編は、それぞれの物語が異なる角度から人間の心理や関係性を探求し、読者に深い感銘を与えます。村上春樹独特の文体やテーマは、興味深い読書体験を提供し、彼の作品に親しんできたファンだけでなく、新たな読者にも響くことでしょう。

もう一度検索