一代のぼる

一代 のぼる（いちだい のぼる）

日本の作曲家。本名：首藤 正毅（しゅとう まさき）。1937年（昭和12年）10月20日に大分県臼杵市佐志生で生まれ、2000年（平成12年）4月29日にその生涯を閉じた。故郷大分県の風土を背景に、多くの人々の心に響く歌謡曲を生み出した作曲家として知られている。

生い立ちと上京

大分県臼杵市で生まれた一代のぼるは、地元の臼杵市立豊洋中学校を卒業後、津久見市にあった大分県柑橘試験場の分場で専門的な知識を修得し、実家が営んでいたミカン栽培に従事した。故郷で農業に打ち込む日々を送っていたが、音楽への情熱を抱き続け、24歳を迎えた年に上京することを決意する。大都会での生活が始まると、生計を立てるために「流し」として歌い歩きながら、持ち前の音楽への探究心から作曲の技術を独学で身につけていった。この頃の経験が、後に彼の生み出す楽曲の情緒豊かなメロディーや歌詞に深く影響を与えたと言われている。

作曲家としての歩み

独学で作曲を学び続けた一代のぼるは、やがてプロの作曲家として認められるようになる。その才能は多くの歌手から注目され、千昌夫氏、小林旭氏、水前寺清子氏、村田英雄氏といった、当時の日本の歌謡界を代表する錚々たる顔ぶれの歌手たちに楽曲を提供するようになった。それぞれの歌手の個性や魅力を引き出す多様な楽曲を手がけ、作曲家としての確固たる地位を築き上げた。彼の作品は、演歌やムード歌謡を中心に、叙情的で親しみやすいメロディーラインが特徴であり、聴く者の心に深く寄り添うような温かみを持っていた。

代表曲「帰ってこいよ」

一代のぼるの作曲家人生において、最も広く知られ、また大きな成功を収めた楽曲が、歌手・松村和子のデビュー曲として1980年（昭和55年）に発売された「帰ってこいよ」である。この曲は、故郷や大切な人への思いを切々と歌い上げる歌詞と、心に染み渡るメロディーが多くの聴衆の共感を呼び、大ヒットを記録した。翌1981年（昭和56年）には、第32回NHK紅白歌合戦でも歌唱され、その人気を不動のものとした。「帰ってこいよ」は、一代のぼるの名前を世に知らしめただけでなく、日本の歌謡史においても忘れられない名曲として、今なお多くの人々に歌い継がれている。

芸名の由来とその他の主な楽曲

「一代のぼる」という印象的な芸名は、数多くのヒット曲を手がけた著名な作詞家である星野哲郎氏によって名付けられたものである。歌謡界の第一線で活躍した星野氏との交流の中で生まれたこの名前は、彼の作曲家としての活動を象徴するものとなった。

「帰ってこいよ」以外にも、一代のぼるは多岐にわたる楽曲を提供している。主な作品としては、水前寺清子氏が歌唱した「おしてもだめならひいてみな」（1968年）や「東京でだめなら」（1969年）、千昌夫氏のヒット曲であり第34回NHK紅白歌合戦でも披露された「夕焼け雲」（1976年）、小林旭氏の個性的な楽曲「ショーがないね節」（1976年）、そして米倉ますみ氏の「俺の出番はきっと来る」（1983年）などが挙げられる。これらの楽曲もまた、それぞれの時代の歌謡シーンを彩り、一代のぼるの作曲家としての幅広い才能を示している。

故郷を愛し、独学で音楽の道を切り拓いた一代のぼる。彼の残した叙情的で力強いメロディーは、日本の歌謡曲の豊かな歴史の一部として、今後も多くの人々の心に生き続けるだろう。

もう一度検索