一味神水

一味神水（いちみしんすい）とは

一味神水とは、中世日本において「一味同心（いちみどうしん）」と呼ばれる集団が、結束を誓う際に行われた儀式です。別名、神水起請（しんすいきしょう）とも呼ばれます。

儀式の流れ

一味同心に参加する人々は、神社の境内などの神聖な場所に集まり、以下の手順で儀式を行いました。

1. 起請文の作成と署名: 参加者全員で誓約の内容を記した起請文を作成し、署名します。
2. 起請文の奉納: 作成した起請文を神前に捧げます。
3. 神を呼ぶ儀式: 鐘や鉦などの金属製の楽器を打ち鳴らし、神を呼びます。
4. 起請文の焼却: 起請文を焼き、灰にして神前に捧げます。
5. 神水の調合: 神前に供えられた水（神水）に、焼いた起請文の灰を混ぜます。神水の代わりに神酒が用いられることもありました。
6. 神水の回し飲み: 調合した神水を参加者全員で回し飲みします。起請文を作成せずに、口頭での誓約と神水の回し飲みのみを行う略式の場合もありました。

儀式の意味

一味神水の儀式は、視覚、聴覚、味覚に訴えかける演出によって、参加者の心理に強く働きかけました。

金属器の音: 神聖な場所で鳴り響く金属器の音は、場を厳粛な雰囲気に包み込みました。
起請文の焦げた匂い: 燃やされる起請文の焦げた匂いは、誓約の重みを意識させました。
神水の回し飲み: 神と人、そして仲間同士が同じものを飲食することで、一体感が醸成されました。

これらの要素が組み合わさることで、参加者は神との誓約を強く意識し、裏切った場合には神罰が下るという認識を抱いたと考えられます。

歴史的な事例

一味神水を伴った起請文の控えとして、以下の事例が知られています。

文永7年（1270年）・永仁6年（1296年）: 近江国の大島・奥津島両社の神官と百姓間で行われた起請文
長禄元年（1457年）: 和泉国日根郡の国人9名によって行われた起請文

江戸時代の規制

江戸時代に入ると、幕府は徒党を組む行為を禁じるようになり、一味同心も規制の対象となりました。和歌山藩では、一味同心そのものを禁止する藩法が制定され、一味神水も規制されるようになりました。

一味の語源

「悪党の一味」などという言葉に使われる「一味」は、一味神水の儀式に由来するとされています。

参考文献

小泉宜右「一味神水」（『国史大辞典 1』吉川弘文館、1979年）
勝俣鎮夫「一味神水」（『日本史大事典 1』平凡社、1992年）
下東由美「一味神水」（『日本中世史事典』朝倉書店、2008年）
千々石到「一味神水」（『歴史学事典 9 法と秩序』弘文堂、2002年）

関連項目

荘家の一揆
* 逃散

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